ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.03.16
舟鼻峠〜三引山〜大滝山〜横山〜神籠ヶ岳
カテゴリー:雪山

2013年3月16-17日

 

5年前に横山の長い山頂の東端をかすめて神籠ヶ岳を歩いた時、山頂の奥に見えた霧氷のブナ林の美しさが心に残った。地図をみると横山に連なる尾根は限りなく緩やかで、最後は駒止湿原に吸い込まれていくように見えた。けれどその当時は自分が歩けるようなコースとは思えなかったし、記録もみあたらなかった。

その後佐藤勉氏の「我が南会津」を入手すると、その中に駒止高原大山地縦走の記録があって、横山から駒止湿原縦走の記録が掲載されていた。氏はその魅力について「高さや険しさを求める登山とはまたひと味異なったワンデリングの楽しさがあるはずである」と述べている。このような山の楽しみ方もあるのかと新鮮に感じたことを覚えている。

以来何となく気になる山域として心の片隅に止まっていたが、ネットの記録は皆無であり、やはり漠然と自分が行けるところではないと封印したまま月日が過ぎた。

今回突然のように、そんな憧憬のコースを歩く機会を得た。じつは当初は七ヶ岳の縦走を考えていたのだが、スキー場からの入山にYさんはしっくりしないようだった。とにかく会津にこだわっていたので思い切って舟鼻山~横山の読図逍遥を提案。出発3日前のことだった。この頃には多少不安だった予報が好転したのが幸いした。こんな山とも言えない山の縦走など興味を持たない人の方が多いのではないかと思うが、そこはブナの沢旅メンバー。すぐに、面白そうだと合意してくれた。

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前夜のうちに車で現地へ移動して、道の駅田島で仮眠する。翌朝6時前に舟鼻峠へ向かうが沿道には雪がほとんどない。今年の冬は早い時期に積雪が多く豪雪の年になるのかと思ったが、最近は全く降っていないようで、おまけに気温が高い日が多く、ずいぶん融けてしまった印象だ。それでも舟鼻トンネルに近づくとそれなりに雪深くなり雪山気分にスイッチが入る。

トンネルを抜けると、予想通り右手に除雪された10台分ほどの駐車スペースがあり、車を止める。当然他に車はない。もしあったら、多分ちょっとガッカリしたかもしれない。さっそくシューをはいてトンネル脇の緩い斜面に取り付く。古いトレースは舟鼻山へ登るためのものだろう。雪はよく締まっていて歩きやすい。

地形が判然とせず、最初から何度も地図とコンパスで確認。今回のテーマは複雑な地形の読図を楽しむことなので、できるだけGPSに頼らずに行こうと申し合わせる。この山域のブナは伐採二次林なのであまり期待はなかったが、細い木々の中に伐採を免れた大きなブナが点在していて雰囲気もいい。

除雪されていない古い林道の道形を越えて行くと左手に白森山のポコが近づく。緩やかな等高線の山と谷が複雑に入り交じっている地形が続くが、コンパスで方向を合わせれば、行く手を遮る高みや谷間は全て緩やかなので、ほとんど無視して進むこともできる。

最初は雲も多かった空だが次第に青空が広がり、開放感も広がる。展望というほどの展望があるわけではないが、南方向に七ヶ岳の峰が並んでが真っ白に聳えて見える。こちらの低山小山からみると風格の違いを感じる。

真っ白な雪原にでると真ん中に大きく枝を広げたブナが一本たたずんでいる。きっと昔はそんなブナの大木が生い茂る森だったにちがいない・・・なんて想像しながら、あくまでも穏やかにうねる広々とした地形の波間を進んで行く。

歩いても~歩いても~小舟のように~

わたしは揺れて、揺れてあなたの腕の中♪

なんて、今となっては懐メロの歌詞が頭を巡る。山登りも展望もなく、ただひたすら続くブナ林の雪原台地。どうしてだろう。それだけでとても幸せな気分になれるのだ。

現在地がわからなくなり、一生懸命地図を見ているsugiさんを横目にこっそりあんちょこを出してチェックする。それでも時々、当然この尾根だろうと引き込まれては軌道修正をする。そんなパズルのようなルートファインディングが楽しく感じられる。そして、このコースは記録がなくてトレースがないからこそ面白いのだと思う。

地図でみるとこれまで越えたポコは、1034、1044、1046、1042m。まったく標高が変わっていない。1042mをこえるとブナ平と呼びたくなるような大きなブナが立ち並ぶ広い鞍部となる。先週の高曽根山のブナ林に引けを取らないとてもすてきな所で、うれしくなってしまう。それにしても、大きなブナには必ずといっていいほどクマのツメ跡が残されている。少し先にはクマ棚も見つけた。けっこうクマの密度が高い所のようだ。

ここから少し広い斜面の登りとなり、ようやく1100mの大台に乗り上げる。三引山が近づくと、北東方向のはるか遠くに、ちゃんとした山の姿をしている横山が見えて来た。あそこまで行くのか~遠いね~なんて言いながら足取りは軽い。当初の目標は初日に大滝山と横山の鞍部まで進むことだったのだが、このペースだと横山まで行けるかもしれない。

どうも三引山に着いたようだが、どこが山頂なのかわからない。そもそも、ここが山なのかと思いたくなる地形だ。いちおう一番高そうな所でストックを山形に掲げて証拠写真をとり、つぎなる里程標の大滝山へ。

 

相変わらず茫洋としたブナの雪原が続くが、尾根が東に向きを変えてからは多少尾根筋が明瞭となる。その代わりというか、南側は尾根の境界線ぎりぎりまでカラマツの植林がせり出している。大滝山は郡界尾根から少し南に引っ込んだ所にあるが、このあたりは植林帯で面白くないし、山といっても台地をたどるだけなのであっさりパスする。今でも地名で残っているように大滝山南麓にはかつて木地小屋集落があり、全戸が小椋姓を名乗って木地づくりをしていたという。

大滝山を過ぎると地図で予想していた通り、尾根は再びだだっ広い雪原となる。ひたすらコンパスが示す方向に進むと、赤い境界見出し標を発見。始めて見る人工物だ。ルートが正しいことが確認できた。尾根が北向きに変わると東側の展望が開け、那須連峰の山並が見えて来た。今月の初めに行ったばかりなので、山の一々がいまだ記憶に新しい。那須連山から少し距離を置いて聳える旭岳はいつ見ても凛々しいと思う。

枝尾根の合流点らしき所に一箇所だけ赤テープが見えたと思ったら、突然ツボ足のトレースがあらわれる。そうか。桑取火から横山に登るルートがあることは以前調べたときに知ったのだが、尾根分岐の目印なのだろう。ツボ足の主はきっと別の尾根から横山に登って赤テープの所から下って行ったのだろう。

「会津の峠」では、横山は横山峠として紹介されており、桑取火から郡界尾根をこえた会津美里町の入谷ヶ地を結ぶ峠としてかつては交流の道があったこと、桑取火も木地師の集落だったが、横山には入らずブナは伐採をまぬがれたのだという。

尾根が北に向くと、たしかにブナの原生林が残されており大木が多くなる。樹林越しに横山が近く見えるのだが、進んで小山に乗り上げると谷筋にさえぎられ、回り込むとまた漠然とした小山が現れるという地形をくりかえす。そして小山には四方に尾根が伸びているため、つい顕著な尾根に引きずられそうになる。

こんなわかりにくい地形なのに、ツボ足の主はストックも使わず迷った気配もなくスタスタ歩いている気配だ。下っているので登りの我々よりもっとわかりにくいはず、きっと地元の慣れた年配者に違いないと勝手にプロファイリング。

ようやく等高線が密になって細くなる尾根の取り付きに近づくと、東側に雪庇が張り出しあちこちに亀裂ができている。西側の雪がはがれた藪を絡めながら進んで急斜面の登りへ。雪が少なくかなり笹藪が出ている。これまでほとんど登る感覚なしに歩いて来たので、100mほどの急登が堪える。

いつの間にか青空が消え、雲行きが怪しくなってきた。1300mを越えると傾斜が緩み、気持ちのよい稜線歩きとなるはずなのだが、突然吹雪始め、天候の激変ぶりに唖然とする。横山山頂は目前だが、山頂下の広い鞍部は風も穏やか。横山のブナ林は翌日の好天の下で歩きたかったので、ここにテントを張って行動を終えることにする。

雪は締まっているので整地は不要。今回は好天予報だったので焚き火を楽しみにしてきたのだが、残念ながらおあずけとなった。その代わり、翌朝はブナの霧氷が期待できるかもしれない。昼間に青空のブナに大いに感激しつつ冗談で、これで夜に雪が降って霧氷が見られれば完璧なんだけどと、欲張りなことをいって笑われていたのだが、なんだかその通りになりそうだ。

風雪に煽られながらのテント設営も随分手際がよくなった。中に入って一段落するといつもホッとする。まずはお茶で温まり、あとはなし崩し的にいつものディナータイム。一々書きとめはしないが、いつも慎ましやかなりに豪華な食材が並ぶ。

 

強風は一晩中続き、夜中に目がさめるとテントの一方に雪が吹きだまっていた。明け方に怖々と外をのぞくと、ガスってはいるものの東の空がほんのりと赤く染まっている。わーい、今日も晴れるぞと、そそくさと朝食。出発する頃には青空も広がり昨日見えなかったあたりの景色が朝日に照らし出されて美しい。

ひと登りで山頂の一角に乗り上げると、そこは端正なブナが林立する細長い台地になっていた。山名標識などなく、小さな木の枝に巻かれた赤いテープが控えめに何かを語っているようだ。

横山は名前の通り1キロ近くもある平頂の山で、すべてブナに覆われているのだ。そして期待通り、霧氷の花が咲いていた。あまりの美しさに目が釘付けになると、ほんとうにきれいだねと足も釘付けになる。はかなくもろいガラス細工のようでもあり、短命の盛りに出会えてよかった。

こんなに美しい光景はたぶん今シーズン一番ではないだろうか。じっくりと味わいながら進んで山頂の東端へ。ここは5年前に茂峨沢右岸尾根から上り詰めたところだ。あの時のぞいた山頂の奧をようやく歩くことができた。

当初は横山からこの尾根を下るつもりだったが、初日に行程がはかどったので、神籠ヶ岳まで足をのばすことにした。いちおうその可能性も考えて地図を用意してきた。一度歩いているという安心感があるので、気が楽だ。東側の展望が開けた北東尾根を下り、1320mの二つ目のポコで東向きの尾根にのる。雪庇のため下る尾根が見えず5年前にウロウロしたところだ。雪庇を崩してブナを手がかりに下る。

 

 

 

穏やかに下った1240mの広い鞍部は、以前テントを張った懐かしい場所。ザックを下ろして休憩する。時間もあるので昨日できなかった焚き火をしようと豊富にある枯れ枝を集めたが、湿っていてなかなか火が熾きず未遂に終わってしまった。まるでクマ棚が木から落ちてきたような枝の塊を残して先へ進み1380m峰へ。なかなか展望のいいピークで神籠ヶ岳よりも数メートル高いのに無名峰だ。きっと麓からは目立たないのかもしれない。博士山から志津倉山の山塊が近い。

昨日歩いた三引山から北にのびる尾根をたどると博士峠をへて博士山につながっていることがわかる。そそられるコースである。見下ろすと小さなお椀をひっくり返したような形状の山が幾重にも重なって見える。全山ブナ林の横山もほんとうにたおやかな姿で美しい。

神籠ヶ岳山頂は目前だ。山頂を正面に見ながら広くて気持ちのいい斜面を滑るように下り、登り返して山頂へ。ここでも山頂の目印は小さく枝に巻かれたテープだけ。5年前は雪庇脇の樹林に色とりどりのテープが何本か巻き付けられていたが、今回はなくなっていた。当然あるだろうと予想したトレースもなく、まっさらな雪の山頂はとても靜かで好ましかった。

今まで見えなかった北側の展望が開けるが、残念なことに霞んで遠くがぼやけている。飯豊連峰も何となくしか見えない。それでも昨日から歩いた長い道のりを想い、彼方の山並を見渡しながら、地味だけれどしみじみといいコースだったと感慨にふける。

さて、あとは大内宿に向かって下るだけ、と思いきや、思いの外冷や汗をかいてしまう。下る尾根は厚い雪庇の壁になっていてとても下れそうに見えない。ええっ、こんなだったかしらと思うが、前回はトレースがいやというほどたくさんあって道ができていたのだ。Yさんがスコップで土木工事に精を出し、階段をつくってなんとかクリア。

つづく腐れ雪の急斜面も気が抜けない。5年前はとくに問題なかったのに、これじゃあ全然進歩していないではないかと泣き言をいいたくなる。途中のブナがきれいな平坦地で一息つくが、どうやら感激の情は横山で使い果たしてしまったようだ。再び急斜面を怖々やり過ごし、最後は忍耐系になってしまったとぼやきながら駐車場近くの車道に降り立った。

そんなわけで最後は予想外の苦労をしてしまったが、神籠ヶ岳は「駒止高原大山地縦走」のいわば起点となる山なので、取りこぼさずにすんでよかったと思う。そして今回も横山のブナの素晴らしさが印象に残る山旅となった。これからも、機会を見つけて舟鼻峠以西の未踏のコースを歩いてつなげていきたいと思う。

 

 

16日 舟鼻峠6:20-三引山10:15-大滝山下-1350m鞍部(幕営地)15:40

17日 幕営地6:45-横山6:55/7:25-1240m 鞍部ー1380m峰9:50/10:00-神籠ヶ岳10:25/10:40-大内宿駐車場14:15