ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2013.03.05
甲子旭岳
カテゴリー:雪山

2013年3月5-6日

 

2月は日帰り山行2回だけというさびしい結果で終わってしまったが、いろいろな出来事が重なって時間をとられていた。もっとも週末になると行きたい山は暴風雪だったので、代わりにやることがあって良かったといえるかもしれない。そうこうしているうちに里は春めいてきた。山の天気もしだいに安定していくはず。これからはもっと山へ行く機会をふやして青空と残雪の山旅を楽しみたいと思う。

と、想いを新たにしたところで、まずは2月の未消化山行。Yさんの移動も考慮して行先は会津と那須連峰の中間あたりに決めた。甲子山から坊主沼をへて旭岳に登ろうという計画だ。旭岳は昨年会津の観音山経由で登っているが、山頂から見た裏那須連峰の山並がとても魅力的だったので、いつか那須連峰に続く南の尾根から登ってみたいと思った。また、甲子山も去年2月に鎌房山~大白森からつなげる計画だったが、強風とラッセルのため鎌房山で敢えなく撤退した経緯のある山だった。

========================

前夜のうちに甲子トンネル入口手前の駐車スペースに移動して仮眠し、翌朝7時頃に出発。登山道はトンネルの右側からジグザグについているが、積雪期はトンネル左側の尾根を直登する。幸い駐車スペースからトレースが付いていたが、恐ろしく急斜面の尾根だ。雪が締まっているのはいいのだが、登るにつれ雪面がガリガリになり、たまらず途中からピッケルを刺しながら登る。おおむね曇り空だが、ときおり青空がでたり雪が舞ったりと目まぐるしく変わる。

1250m付近の猿鼻からようやく傾斜は緩み、尾根が広がって歩きやすくなる。途中に雪のブロックを積み上げたテン場跡があったが、きっと厳冬期で厳しいラッセルをするとこのあたりまでしかたどり着かないのかもしれない。1410mでは甲子峠分岐の標識が頭だけ出していた。ここは昨年白水谷と南沢を遡行したときにそれぞれ昼食休憩を取ったなじみ深い場所だが、驚くほど景観が違っている。甲子山への登山道はえぐれた急斜面でトラロープが張ってあったが、すべてが雪に埋もれてとても歩きやすい緩やかな尾根道になっている。

このあたりから木々に霧氷がつき始め、雰囲気が変わる。右手の斜面には霧氷のブナ林が広がりとても美しい。天気はあまりよくないし視界もないのだが、こういうときは霧氷の森が幻想的に見えるのがいい。登るにつれ所々吹きだまりの痩せ尾根となり、低灌木のトンネルをくぐるように登っていくとひょっこりと山頂へ。

なにも見えないので、思わず「ええっ、ここって山頂?」。無木立の狭い平地に標識が2本ぽつんと立っていて、「あんた達、ここで何してるのー」といいたくなる雰囲気だった。風も強く視界も悪くて散々なのだが、今回はここからが勝負どころだ。きっとsugiさんも同じ気持ちだったのだろう。よしっ、先に進もう!と気合いを入れる。東側に張り出した雪庇の痩せ尾根を進んでもう一つのポコへあがり、下る尾根を見極める。

いつも風が吹いているところなのだろうか。鞍部に下る斜面はカリカリで、おまけに強風にあおられるものだからかなり冷や汗をかいた。アイゼンに履き替えたかったが、時すでに遅し。ちゃんと事前に見極めないといけない。

広い鞍部に下ってホッとする。ふたたび樹林帯に入るとカラフルな道標が立っていた。夏道はこのあたりから尾根を外れて緩やかな斜面をトラバースしていくのだが、地形は茫漠としている。進む方角を確認し、高度を変えないようトラバースしていけばなんとかなるだろうと、ガスで霞むブナの森を彷徨うように進む。標識が立っていたところは伐採二次林だったが、森に分け入って行くとブナの大木がふえ原生林の雰囲気となる。厳冬期に舞い戻ったようで、ますます吹雪いてくるが、明日はきっと晴れると信じているので、むしろ楽しむ余裕さえあった。ほんとうに幻想的なブナの森だった。

小さな尾根に乗り上げるとようやくテープを見つけた。ここからは所々に付いたテープを目印に進む。地図からも想像できるが地形は漠然と複雑なため目印がありがたい。しだいに疎林となり、真っ白なポコや雪原が広がる。そろそろ坊主沼避難小屋に近づいたようだ。この時期はまだ小屋は雪に埋もれていて4月初旬に地元の山岳会が小屋を掘り起こすらしい。そのために最初から小屋は当てにせずテントをかついで来たのだが・・・

大きなすり鉢状の雪原に出た。ここが坊主沼だろう。まだ時間は早いので旭岳の南尾根取り付きに向かったが、ロケーションは坊主沼の方がいいので戻ってザックを下ろした。なんとまだ1時前。こんなに早く行動を終えたことは初めてだった。

フカフカ雪を整地するのに手間取り、風に煽られながらテントを張る。外はどんなに吹雪いていても中に入ればくつろぎの空間だ。お湯を沸かし、お茶とケーキでまずは一服。それでもまだ時間が早いので、ティータイムのあとはシュラフでお昼寝タイムとする。するといきなり突風に煽られ、一瞬テントごと浮き上がりる。イヤな予感がして外をのぞくと案の定、雪にさしておいたシューがとんでもないところに飛ばされていた。気付かなかったら翌朝シューが行方不明で大変なことになっていたかもしれない。安全な場所にテントを張ったので不安はなかったが、ちょっとした体験で一日目を終えた。

夜には遠くの地鳴りもおさまり、静かに夜が明けた。予想通り、朝から快晴の様子。昨日は何も見えなかった周囲の景色に目を見張る。朝日に染まる旭岳がそびえ立っている。その時はまだ風もなく、登頂には最高の条件だと感じられた。

時間の余裕があるので急ぐことはないと思っていたが、朝食の頃から風が出始める。やっぱり、そうは問屋が卸さない、か・・・快晴とはいえ那須連峰の山岳予報では暴風警戒がでていたのだ。急いで支度をして出発する。

坊主沼の窪地を越えると那須連峰の山並が広がり、一挙に展望の尾根となる。適当なところで右手にのびる旭岳の尾根に取り付くが、見た目よりも傾斜があるため、途中でアイゼンとピッケルに変える。久しぶりに心地よい緊張を感じながら一歩一歩アイゼンを蹴りこんで平坦な尾根にのる。すばらしい展望だ。目の前には端正な山容の須立山が控え、その奧にはどっしりとした三本槍岳。さらに奥には茶臼岳が頭を出している。

去年山頂から見えた景色をもっと間近に感じる。大峠の鞍部から西方向には三倉山へ続く稜線が真っ白な山並を連ねている。今回も最初は三倉山を検討したほどで、きっといつか雪尾根を歩いてみたいと思う。一方、坊主沼を挟んだ対岸の丘陵に目をやると、ちょこんと屋根を出している避難小屋が見えた。完全には埋まっていなかった。

しばらくは広く緩やかな尾根を登る。旭岳に続く尾根は山頂直下の瘤以外おおむね緩やかだが、右側が切れ落ちた痩せ尾根だ。風はますます強まり至る所で雪煙をあげている。ピッケルを刺しながら慎重に進むが、何度も体を振られ、そのたびにしゃがみ込んでしまう。1710mに乗り上げると山頂がさらに間近となるが、先はほとんどナイフエッジに近い尾根となる。すでにしゃがみ込んだ状態で動けず、先を行くsugiさんにしばらく停滞して様子をみたいと伝える。

強風ながら昨日よりも気温ははるかに高く、灌木を踏み抜いたところに腰を据えてどまっていてもそれほど寒さは感じない。しばらく様子をみるとはいったものの、これは撤退するための手順のようなものだった。2人で顔を見合わせ何となくコンセンサスができあがる。そして、撤退しようと、一言。

山頂からの展望はここからと帰りに通る甲子山の展望をたして二で割ったようなものだとか、旭岳は登るよりも眺めた方がいい山だとか、ブナの沢旅だもん、そんな無理して登ることはないとか、あれこれ撤退の理屈を並べ上げる。まわれ右して往路をもどるが、尾根が広がる1650mまでは相変わらずよろよろと気が抜けない。時々振り返り、山頂付近の雪煙を見て納得する。それにしてもなんて美しい展望なのだろう。下るにつれ、今度はすぐにテン場に戻るのがもったいなく、須立山方向に進む鞍部まで尾根を下ることにした。風は絶えず西から吹き、尾根の東側は雪庇の発達が著しい。

1560m鞍部に下ると風も穏やかになり、ブナ林の緩やかな斜面が広がる。真っ青な空と雪とブナやダケカンバのコントラストが春山の雰囲気をただよわせている。昨日は厳冬期さながらの幻想的な霧氷のブナ林が美しかったが、今はすべてが春を謳歌している。なんて贅沢な山旅だろうと思う。

広い雪原盆地の真ん中に寝そべるテントに戻った。目の前にはつい先ほど歩いた稜線がスカイラインを引いている。山頂へは行けなかったけれど、すばらしい展望とブナの森を十分に満喫したと、満場一致の大満足。

帰路は少し戻って小山を登り、避難小屋に立ち寄った。屋根の雪は落ちており、かなり掘り起こされている様子だった。入口は開かなかったが、窓から中に入れるようになっていた。外装は新しくきれいで、那須連峰の展望も得られるとてもいいロケーションの小屋だ。わかっていればここに泊まったのになあと思う。

昨日のトレースは完全に消えているが、視界がいいのでテープをたどりながらのんびりと春山ハイキングの雰囲気を楽しむ。旧道と新道分岐の標識のところで一休みし、昨日冷や汗をかいた甲子山手前の尾根に取り付く。登るにつれて旭岳がふたたび姿をあらわすが、甲子山側から見える姿は荒々しく、別名の赤崩山はこちらの姿をあらわしているのだと納得する。

ふたたび甲子山の山頂へ。旭岳の全容が目の前に広がる。そう、これこそ期待していた山頂からの展望だ。これまでは見えなかった会津側の山々を追う。神籠ヶ岳の奧には博士山や志津倉山が遠望できる。彼らのところにもいつか行かなければと思う。今日はしっかり存在意義を感じる標識にカメラを載せ、久しぶりにセルフ写真をとって山頂をあとにする。

ふたたび風が強まったので少し尾根を下ってから昼食を取る。北側の五葉松が防風林となっている平坦地でザックをおろし、雪をとかして温かいうどんを食べながら短いながら変化にとんだ二日間の山旅の余韻にひたる。そして最後の難関である腐れ雪の急斜面。先行するYさんに踏み固めてもらいながらも怖々と下って駐車スペースに降り立った。

5日 甲子トンネル入口駐車地6:55-甲子山10:15-坊主沼(幕営)12:45

6日 幕営地7:10-1710m8:25-幕営地9:35/10:30-避難小屋-甲子山12:20/12:30-駐車地14:50