ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.01.21
笹谷峠〜山形神室(往復)
カテゴリー:雪山

2013年1月21-22日

 

 

最近のブナの沢旅は東北への想いを強めている。なによりも美しいブナの森があり、体力・技量ともそこそこの中年パーティにとって身の丈に合った穏やかな山を連ねているからだ。距離のバリアはあるが、もう一つ思い入れ深い山域の南会津に比べると厳冬期の今の時期でも比較的容易にアクセスできる利点がある。

というわけで、先月に続きふたたび二口山塊へ。仙台神室は2009年の秋に小松倉沢を遡行した時、山形神室は2011年の初夏に小松原沢を遡行した時にそれぞれ訪れている。だから、いつか雪をまとった姿を見たいと思っていた。

当初は初日に山形神室を越えて小松倉沢源頭部の鞍部に泊まり、翌日仙台神室に登る計画だった。けれど都合により日程が一日ずれたため二日目が悪天予報につかまってしまい、前夜発もかなわなかったので仙台神室は最初から諦め、控えめな計画とした。

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仙台から山形自動車道を走り、笹谷トンネルを越えた関沢インターをおりて少し戻るとすぐに車道はゲートで塞がれ、手前が駐車広場になっていた。平日にもかかわらずすでに数台が駐車しており、出発の支度をしている間にも車がつぎつぎと到着する。きっと朝起きたら天気がいいのでやって来たという感じなのだろう。女性を含めみな単独だ。

歩き始めるとすぐに、笹谷峠から登る尾根の真っ白な山並が青空に映えてあらわれ、いやがおうにも期待がふくらむ。遅い出発だが、トレースはしっかりしているので順調なペースで歩く。無雪期には笹谷峠まで車で入れるようだが、ジグザグ登る林道とは別に、かつて宮城と山形を最短で結んだ峠道が登山道になっている。何度か林道と交差しながらしっかりとした雪道をたどる。

1時間ほどで突然視界がひらけ、だだっ広い雪原の笹谷峠の一角にでた。立派な石碑が立っているので見ると、山形の歌人、斎藤茂吉が還暦を迎えた記念に笹谷峠を旅して読んだ歌が刻まれていた。

「ふた國の 生きのたづきの あひかよふ この峠路を 愛しむわれは」

地図を見る限りでは、トンネルが通っていたり林道が横断して広い駐車場があったりと、人工物がありすぎてそそられなかったのだが、すべてが雪で覆い隠された時期は車も入らずとても穏やかで開放的な、すてきな所だ。ゆく手にハマグリ山へ続く尾根がたおやかにこんもりと盛り上がり、反対側は北蔵王連峰につながるカケスガ峰から雁戸山が、これまたゆったりと両翼を広げて手招きしているようだ。その間に立って眺めていると、こっちの方に行ってしまおうかと冗談が口にでるほど魅力的。

とてもゆったりした峠だが、ここは立派な分水嶺。いきなり風が強まり長居ができない。休む間もなくトレースにしたがって目の前の山に取り付く。どこを登ってもよさそうなゆったりとした斜面で、トレースもいくつかにわかれていくが、sugiさんはドンドン直登していく。しだいに雪面はクラスト気味となるがアイゼンを履くほどではない。

小山に乗り上げると尾根が広がり、前方にはこれから向かうトンガリ山から山形神室の稜線が見渡せるようになる。そのエレガントで美しい姿にほれぼれする、今回もいい山に来ることができた、やっぱり東北の山は期待を裏切らないなあ、などと自己満足。

さて、ここで立ち止まり今後の進み方を相談する。直近の山岳予報によると山形神室は夜中から雪マーク一色なので明日は下るだけにしたい。ハマグリ山手前の風が除けられる所にテントを張ることにして不要な荷物をデポし、空身で山形神室をめざすことにした。

風が強いが気持ちよく進んで行くと、今度は山形神室から仙台神室の稜線が姿をあらわす。いままで北側の仙台神室しか見たことがなかったが、初めてみる南側からの姿はまさに甲のような特異な山容で、その存在感を誇示している。最初は仙台神室を諦めるのが残念だったが、山形神室からは予想以上に距離があり、その姿を見たときに到底日帰りでは無理だと気持ちのけじめがついた。このすばらしい雪の背稜を少しでも歩けるだけで満足だ。

さっきまで広がっていた青空に白い雲の筋があらわれ、またたくまに薄雲がひろがった。もう少し早く出発できればよかったのにと未練がましいが、視界は良好。山形側には朝日連峰の白峰が連なり、前方には月山が見える。なんて美しい山並なんだろう~。

ハマグリ山にさしかかると先行していた何人かのハイカーがみな戻ってくる。みなさん寒いから戻るという。まだ昼時だし、歩けないほどの強風でもないので、地元の人はいつでも来ることができるから欲がないのだろう。

ハマグリ山からはトレースがなく、いよいよ私たちだけの山となる。小さな山だけれど頑張ろうと、少し張り詰めた気持ちになる。のっけから急降下の斜面だが、適度に潜るので危険なことはない。見下ろす斜面は霧氷の樹林に覆われ、その向こうには二つの神室が真っ白な頭を並べている。

鞍部からはふたたび緩やかな尾根となり、正面にはトンガリ山が名前の通りとんがった頭で立ちはだかっている。あのトンガリを越えるのかあ~と、すこし緊張するが、近づくと見た目ほどでもなく、慎重にシューを蹴り込みながら急斜面を登って山頂直下へ。直登もできそうだが、左手の傾斜の緩んだ灌木帯から回り込む。このあたりまで来るとモンスターの子どもが目立つようになり、これからもっと育つのだろう。

山頂を小さく巻いて反対側にでた。そして、そこで目にした光景に思わず息をのみ、つぎに歓声。なんとも優雅で穏やかな白銀の別世界が広がっていたのだ。山形側は羽衣の袖を広げたようななだらかな裾野がのびている。荒武者トンガリ山の後ろで悠然と構える菩薩像のような山形神室。なんて、大袈裟に聞こえるかもしれないが、ほんとにここは極楽浄土かと思うほどの別世界に感じたのだった。

夢心地でゆっくりと山頂へ向かう。しだいに灌木は雪に消え、シュカブラの尾根となる。振り返るとトンガリ山もハマグリ山もはるか下。かわりに熊野岳から蔵王山が遠く高く見渡せる。一足先に山頂についたsugiさんが山頂標識をさがして掘り出していた。沢から登った山頂は樹林に囲まれ展望がなく、標識は頭上にあったことを思いだす。ピークハンターではないけれど、沢から登った山を雪山で登るという、ささやかなこだわりがまた一つ、達成できたことを2人で喜びあう。

目の前の大東岳はどこから見てもどっしりしている。先月登った面白山の稜線も明瞭だ。冬はなかなか晴れないという船形山、そしてさらに遠く、雲の上に鳥海山の山頂が浮かんで見えるではないか。朝日連峰の奧には麓まで真っ白な飯豊も霞んでみえる。強風の寒さも忘れ、山座同定に夢中になる。そして今回断念した仙台神室をまじまじと観察し、山頂直下の急斜面のルートをああだこうだと話し合う。

予定通りに行動できてよかったのだが、もう下るだけだと思うと名残惜しい。これから少しずつこの山域の背稜を歩いてつなげたいと、あらたな妄想を抱きながら往路を戻る。時間と気持ちの余裕ができたので、見たものすべてを飲み込むほどに何度も立ち止まり、写真をとったり眺めたりと、これまた至福の帰り道。

トンガリ山直下は灌木につかまって下れば問題なかったが、その後の一直線に伸びる無木立の斜面で冷や汗をかく。思い切れば滑らないとわかっているのにおよび越しになってしまい、かえって滑りやすくなるという悪循環なのだ。さっさと下ったYさんを随分待たせてしまう。

ハマグリ山まで戻ればテン場は間近。時間をかけて山頂標識の雪を取り除いてみると、本物のハマグリが、ハマグリという文字の形に埋め込まれていた。まあ、なんてチャーミングな標識なんでしょ。その上標識の上のオブジェらしきものに雪がつき、まるでスヌーピーのように見えるのだ。こんな風に楽しみながら、ゆるゆるとテン場に戻った。

まだ4時前なのでこれから下山しても明るいうちに車に戻れたが、せっかく2日の時間を取ってテントと食料を担ぎ上げてきたので予定通り泊まることにした。翌日天候が荒れるようなら、柔な自分たちにとってはそれもいい経験になるとか言って、これじゃあ、まるでおままごと山行ではないか。

それほど寒くもなく風もやんで快適な夜だった。高速道路のオレンジ色の照明が眼下に見える。反対側からは山形市街の夜景がとてもきれいだ。月も星も出ていて天候が崩れるのがウソのようだったが、ようやく朝になって小雪がちらつきはじめ、出発する頃には視界もなくなってきた。予報が当たらなかったら怒るよーと息巻いていたので、予定通りだ。あっという間にガスで霞む笹谷峠に降り立ち、沢沿いの雪道を下る。

まだ時間が早いのでこのまま帰るのはもったいない。近くにブナの散策コースがないかと話を向けると、Yさんも同じようなことを考えていたようだ。ならば船形山麓のブナ林を歩くのはどうか。さすがに遠すぎると言われてしまった。北上する道がないので一度仙台に戻らなければならないからだ。う~ん、ならば雪の山寺は?

ということで、まだ訪れたことのない山寺に立ち寄ることになった。ほとんど予備知識はなかったが、半ば凍りついた1000段近くもある石段を怖々と登りながら、峰のあちこちに建てられた雪のお堂めぐりはなかなか興味深かった。ちょっとしたスリルを味わったおかげでようやく帰京する気になり、仙台駅で恒例の牛タンをたらふく食べて帰路についた。

21日 関沢駐車スペース9:40-笹谷峠10:45-ハマグリ山12:15-山形神室13:40/14:05-ハマグリ山直下(幕営)15:40

22日 幕営地7:45-笹谷峠8:05-関沢駐車スペース8:50