ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.10.14
東黒沢~ナルミズ沢
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2012年10月13-14日

 

今年の沢シーズンが終わる前に懸案の単独沢泊まりを実現させたいと思い、日程的にこれが最後のチャンスとなる週末に一人ナルミズ沢へ向った。3年前に遡行しているので悪場がないことはわかっていた。あの時は9月下旬だったがかなりのパーティが入渓していたので、今回も紅葉の時期なので誰かいるだろうとの心算だった。

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いつになく賑わう土合駅から白毛門駐車場へ向うと、こちらもほぼ満車状態。さすが紅葉の時期は人出が違う。おなじみの小径をたどって東黒沢に入渓するが、先行者の気配は感じられない。すぐにハナゲの滝があらわれる。水量は少なめで、簡単に滝上に抜けることができた。

白毛門沢を分けると渓相が変わり、しっとりとした樹林を流れる穏やかなナメ沢となる。あたりの木々はいまだ緑濃く、例年よりも紅葉が遅いようだ。今回はナルミズ沢が目的なので、とくに足をとめることもなく淡々と進む。入渓したときには陽が射していたが、しだいに黒い雲が流れはじめ、晴れたり曇ったりをくりかえす。

今回で四回目の遡行なので新しい感動というものはないが、穏やかで美しい沢であることに変わりはない。あえて言えば、もっと紅葉を期待したのだが・・・

1080mの二俣からはゴーロに時々小滝をかける平凡な沢となり、何度も分岐があらわれて源頭部となる。沢型もなくなるが、踏み跡は明瞭だ。来る度にはっきりしてくるような気がする。

広い稜線台地からはブナの樹林越しに丸山が見える。また積雪期に歩きたいところだ。踏み跡がばらけたので、方角を定めて適当にウツボギ沢一ノ沢へ下降する。30分ほどでウツボギ沢本流へ降り立つと、すこし下流でナルミズ沢に出合う。ようやく出発点にたどり着き、まずは一安心。

ますますどんよりとした空模様となり、うら寂しい雰囲気がただよっている。まあ、そう言わずに楽しく遡行しようと気持ちを切り替え、いざ出発。東黒沢と違い、所々紅葉が色鮮やかで目を楽しませてくれる。そして先行者の足跡があった。

しばらくゴーロ川原を歩くと、きれいなエメラルドグリーンの釜を持つナメ小滝があらわれナルミズ沢にきたんだなあという実感がわいてくる。すぐに出くわす7m滝は左岸の明瞭な踏み跡をたどって巻く。滝上からはほんとうに穏やかな渓相が続き、美しい釜や淵に見とれながらの遡行となる。

大石沢出合先の左岸台地は広々としたテンバ適地になっている。さらに進むと若い男女2人パーティに出合う。先行した足跡の人たちだ。小雨模様のせいか、早々と樹林の中にテントを張っていた。言葉を交わして先へ進むが、これから先は誰もいないのだと思う。

早くも前方が開けて源頭部の山並みを見渡すが、上部は雨雲に隠れている。しだいに諦めの境地に達したのか、心細さも消えて無心に遡行を続けた。S字状のゴルジュは左岸の巻き道をたどるが、前回同様ドロドロのぬかるみだった。

意外と早く魚止め滝が見えて来た。右壁を登ると、少し先の左岸に整地されたテンバがあった。広いゴーロ川原をやりすごし、沢が左にまがったところの右岸の川原に目を止める。3年前に泊った思い出のテンバだ。思わず今回もここに泊ろうかと迷ったが、遡行終了の目安としている4時までもう少し時間があるので、先に進むことにした。前回の記憶では、二俣から右に入ったところに快適そうなテンバがあったからだ。

見栄えのする7m斜滝は左からトラバース気味に越えて滝上に上がる。すぐに二俣となり、右へ進むと両岸が広がり、気持ちのいいナメがずっと先まで続いている。そして右岸の一段上がった平坦地に薪が積まれていた。心の中でやったーと叫ぶ。時間はちょうど4時。さっそくザックをおろし、奧の間取りをチェックする。かなり使い込まれたテンバのようで、奧にはタープを張るための重石も用意されていた。

今回は軽量化のためにテントではなく自立型のツッェルトを持って来た。この頃には風も出て来たため一人で設営したりタープを張るのに苦労したが、いつのまにかそんな苦労を楽しんでいることに気付いた。焚木はすべてが湿っていて風も強かったので早々と諦めたが、ツェルトに潜り込んで身支度を調えると快適な一夜の宿ができあがった。

小さなビールで一人乾杯し、安堵感と充足感に満たされて一日を終えた。大自然の中でぽつんと一人で夜を過ごすのはまだ不安の方が大きいが、夜来たれば朝遠からじと、いつの間にか眠りについた。

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とても寒い夜だった。朝起きてみると外に出しておいた沢靴とネオプレーンのソックスが半分凍りついていた。ツェルトの中では温度計が2度だったので、外は零度以下になったのかもしれない。いつまでも明るくならず寒いので、ゆっくり温かい朝食を取りながら出発を遅らせた。

最初はできるだけ濡れないように乾いた岩を歩いたが、しだいに体も温まり、寒さも気にならなくなった。正面に烏帽子が見えはじめると青空が広がり、がぜん弾んだ気持ちになる。たおやかで開放的な山並みに囲まれたナメを軽快に進み、時々振返ってはその美しさに足がとまる。

2段8m滝は釜をへつって左の水流際を登る。緩やかな多段滝につづく細流の連瀑帯の前半は踏み跡をたどって巻き、その後はいずれも左の水流際を登った。これで滝は終わり、一挙に源流の趣となる。前方左手には大烏帽子山が姿をあらわす。このあたりからは、よく言われる「天国」へ続く径のようなナメとなる。

奧の二俣を左へ進むと流れは細くなり、最後には草原に消え入るようになる。意外なことに、水が涸れる手前には、沢から一段高くなった草原に一張り分のテンバがあった。焚火はできないが、なかなかすてがたいロケーションだ。ただ今の時期は、標高が高い分だけ気温もかなり下がったようで、所々氷が張っていた。

沢型が完全になくなると草紅葉の草原に一筋の径が続く。稜線も近い。前回はこのすばらしいフィナーレがガスに覆われてしまったので、ぜひ晴れてほしかった。単独だっただけに、感慨もひとしおで、最後はかみしめるようにゆっくりと幸せ感を味わいながら笹原の稜線に抜けた。なんだか自分で自分に感動した瞬間だった。

なんと伸びやかな山並みだろう。均整のとれた美しい山容の大烏帽子山を背に、笹をかき分けながらうっすらとした踏み跡をたどる。最初の小ピークを登ると大烏帽子山の後ろに巻機山へとつづく山並みが見えて来る。以前から残雪期に歩いてみたいと思っている山々だ。

途中痩せ尾根をトラバースしたり、アップダウンを繰り返したりで、ジャンクションピークまでがとても長く感じられた。けれど標識がありる登山道にたどり着いたときはほんとうにホッとした。なんだかんだとずっと緊張していたのだと思う。休憩しておやつを食べると元気がでてきた。

さあ、ここからは国道を歩くようなものだ。朝日岳まではとても伸びやかで気持ちのいい稜線漫歩。点在する地塘を見下ろしながら進むとすぐに宝川方面への登山道分岐となる。ここから大石沢出合いまで1時間ほどらしく、空身で周回するパーティも多いようだ。意外と早くに朝日岳へ。このあたりから登山者とすれ違うようになり、人気の縦走路の一角に躍り出た感がある。

さらに笠ケ岳から白毛門へと何度もアップダウンを繰り返す。ナルミズ沢はよく、天国の詰めと地獄の下山などと書かれているが、緊張感から解放された安堵感のせいか、それほど辛いとは思わなかった。たぶん複数できたら、感じ方は違っていたかもしれない。

白毛門に近づくとようやく紅葉が鮮やかになるが、どうも例年ほどではないようだ。山頂は今年三回目だ。下山路の悪路にうんざりしていつも二度と歩きたくないと思うくせに、残雪期、盛夏、秋とシーズン毎にやって来ている。それだけ身近で魅力のある山域なのだから仕方がないのだ。ほとんど休まずにひたすら淡々と下ったおかげで、諦めていた3時半の電車に間に合った。最後は我ながら頑張ったもの。

着替えをする余裕もなく、髪は乱れ汗まみれの汚らしい格好のままだったが、なんだかそれが勲章のように感じられた。このところずっと走り続けていたし、にわかに忙しくなったため休んでもよかったのだが、思い切ってよかったと晴れがましい気持ちで帰途についた。

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13日 土合駅8:45-東黒沢入渓点9:00-丸山乗越12:35-ウツボギ沢出合13:20-ナルミズ沢遡行-二俣15:55-右俣幕営地16:00

14日 幕営地6:55-奧の二俣7:55-稜線8:25-ジャンクションピーク10:10/10:25-朝日岳10:50-笠ケ岳12:00-白毛門13:00-土合駅15:20