ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.10.08
本名御神楽・霧来沢前ガ岳南壁V字第2スラブ
カテゴリー:ハイキング

2012年10月7-8日

 

2年前に雨で流れた前ガ岳南壁のスラブ登りが、ひょんなことから実現した。一人で出かけるつもりだったが、直前にyukiさんの計画に合流することとなった。会越国境方面は交通の便が悪く遠いので、フットワークの軽さを自認している私でもそう簡単には行ける所でない。千載一遇のチャンスとばかり飛びついたのだった。

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前日のうちに霧来沢奧のテンバまで進む予定だというので、昼前に郡山駅でピックアップしてもらう。高速に乗る手前でnon&kimie夫妻と合流し、全員がyukiさんの車で現地に向う。会越方面は久しぶりだ。一昨年は10月に鞍掛沢、11月に木地夜鷹山と続いたが、昨年は東北大地震や7月の集中豪雨など大災害が発生したこともあって足が遠のいていた。

途中、会津坂下でyukiさんお勧めのそば処、水車(くるまや)によって遅い昼食をとる。ソバの栽培を含め、すべての行程をご主人一人でこなしているのだという。ソバ打ちを趣味とするyukiさんは、わざわざこの店からそば粉を取り寄せている。

そういえば、ソバのおいしさは90%がそば粉で決まるとものの本に書いてあった。まるでソーメンのような細い手打ちソバなのだが、食感といい香りや歯ごたえなど、こんなに美味しいソバは食べたことがないと唸ってしまうほどだった。と、あまりのおいしさに早くも脱線気味・・・

昨年7月の豪雨で只見線は大白川と会津川口が依然不通だと聞いていたが、会津川口駅近くで鉄橋の一部が崩れ落ちたままの状態になっていた。本名発電所を過ぎると未舗装の林道となり、霧来沢沿いを奧へと進む。地図をながめては沢に雪山にと憧ればかりをつのらせて来た山域だ。

6月ころにモウガケ沢と前ケ岳を計画しようと思ったのだが、今年は残雪が異常に多く諦めた。鞍掛沢を遡行した時に駐車した広場には車が3台とまっていた。さらに奥まで進み、御神楽岳登山口に駐車。

当初はモウガケ沢出合いのテンバまで進む予定だったが、天気が崩れて雨模様となったため、移動しなくてすむ駐車広場で泊ることにした。タープを張ると快適な空間ができあがり、さっそく宴会の支度にとりかかる。今回はkimieさんが豚汁と焼き肉という、いかにもパワーがわきそうな献立を用意してくれた。なにしろダーリンは15歳も年下のクライマー君。彼女をみていると、パートナーが若いと気持ちも体も若返るってホントなんだなと思う。

それにしてもみんなよく飲む。私もつられていつもよりたくさんビールとワインを口にしたが、それほど酔わなかったのはよそ者意識があったからだろうか。延々と食べたり飲んだりしながらとりとめのない話で盛り上がった前夜祭となった。

翌朝は朝霞の中を出発し、しばらくは登山道を歩く。ナメが沢幅一杯に広がる八丁洗ノ板で沢におりてみるが、このところの渇水で水量が少なくあまり見栄えがしない。すぐに登山道に戻り、鞍掛沢出合い先の登山道が沢から離れる所から沢に入った。しばらくはゴーロ歩きだが、キノコ狩りよろしく目をキョロキョロ。地元メンバー達はそれほど珍しくないようで採ることもなかったが、大きな倒木一面はえていたキクラゲにはさすがに興奮。女性陣でせっせと収穫した。

御神楽沢(左俣)を分けると小さなゴルジュとなる。その後はしだいに傾斜がでて石滝のような巨岩帯となり、時々難儀しながら進む。霧来沢の本流を左に分け、沢が右に曲がると前方が開ける。するとまるで我々の到着を待っていたかのようにガスが流れ出し、ジャジャ~ンと銅鑼でも鳴りそうな雰囲気で青空と前ケ南壁のスラブ群が姿をあらわした。

中央にはいかにも我こそは、と顕著なV字スラブがデンと構えて見える。その左側には登れるとは思えないほど急傾斜の第3、第4スラブ。それらが居並ぶ様はほんとうに感動的で、一同感嘆の声をあげた。とても1000mそこそこの山とは思えない堂々たる姿だ。

すぐに右スラブの入り口となる。以前に遡行したyukiさんによると、傾斜も緩くて短く平凡なルートとのこと。さっそく立ちはだかる壁のようなスラブを見上げるが、開放的で威圧感はない。

アクアステルスのフリクションは抜群で、スラブも適度にフレーク状になっているため、四つん這いになりながらなんとかロープに頼らずにも登っていける。1箇所急なナメ滝は右の水が流れる凹角状から巻き気味に登り、適当なところでトラバースして本来の沢筋にもどった。

V字直下の広場のようなテラスで休憩をとる。見下ろすとたどった沢筋がすべて見え、すごい高度感だ。前方はこれまた首が痛くなるほど見上げるギザギザの岩峰群。まったく恐るべき低山の田舎スラブと、爽快感に満たされる。日射しは強いが、さわやかな秋の空気を感じながら銘々寝転がったりして、しばらくのんびりした時間が流れる。

さて、行きましょうか。いよいよ第2スラブへと進む。一段上ったところで傾斜が強くなる。non君がロープを引いて登るが手がかり少なく苦戦している。これまでの数少ない記録でそんな所はなかったので、右側にルートがないかとyukiさんに偵察してもらうと、やはり岩瘤を挟んだ右側の方が登りやすそうだという。大変だが彼には降りてきてもらい、右のスラブへトラバースすることにした。

一足先に移動すると張り出した岩瘤の左が流水のある凹角状となる。右は乾いてのっぺりしたスラブ。どちらのルートを取るか迷ったが、一見取り付きやすそうな凹角状を登ることに。ところが中段で行き詰まってしまう。降りることもできずにどうしよう。

他のメンバーが来るまで待って上からロープを出してもらうしかないのかとも思うが、勝手に行動してこの有様なので、それではヒンシュクものだ。と、意を決して我ながら必死のクライミング。久しぶりに心臓をバクバクさせながらわずかばかりの泥土スタンスに命を預け、もう片足を左壁に突っ張らせて這い上がって危機を脱出。ずっと心臓が高鳴り続けていた。ああ、よかった~。

その後は問題なく登り、左右のスラブを分けている岩瘤の上に乗り上げると、下に同じく苦戦しているnon君の姿が見えた。ロープを持っていたら上から引き上げられたのにと思う。これ以上勝手に進むのはよくないので、小さなテラスで眼下の光景をぼんやり眺めながら他のメンバーが合流するのを待った。

更に進み、所々えい、やあ、ちょっとふざけてファイト一発!などと声を出しながらも、おおむね快適なクライミング。稜線に近づくと草付の大岩登りとなるが、灌木などの手がかりも豊富で、すんなりと稜線へのりあげた。低灌木の藪尾根は両サイドとも切れ落ちているようだが、藪のおかげで暢気でいられる。きっと積雪期は恐ろしくも魅力的なナイフエッジの雪稜になるのだろう。

たいした苦労もなく登山道に合流し、昼食の休憩をとる。Kimieさんが持参した炊き込みご飯のお握りがとても美味しかった。なんだか全員が下山モードの雰囲気。Yukiさんも、御神楽岳はけっこう遠いし、なんちゃらかんちゃらと、山頂へ行く気はさらさらなさそうだ。

 

 

 

 

2年前に鞍掛沢から山頂に出たときはガスでなにも見えなかったので、晴天ならば山頂からの景色をみたいと思っていたが、まあ、いいっか。スラブ登りで十分楽しんだものね。

こんなにいい天気の連休なのに登山道でさえ誰とも出会わない。近郊の山なら考えられないことだ。ひたすら急斜面の道をドンドン下って行く。沢が近づくとブナの原生林が広がり、力強いオーラを発する大木が点在する。最後尾で一人立ち止まっては触って眺めたり写真をとったりしながらマイペースで下るが、時々みなが待っていてくれる。

道が沢沿いになったところで川原におりたち、沢水でほてった顔を洗って一息つく。ちょうどナメがきれいなところで、両岸はブナの森。スラブで思いっきり遊び、最後は穏やかなブナの森が広がるナメ沢でくつろいでエキサイティングな一日の余韻にひたった。(yuki、ako、その他2)

 

 

御神楽岳登山口7:00-右スラブ分岐9:00-稜線11:45-登山道12:25/12:50-登山口14:50