ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.01.17
鉛温泉スキー場~駒頭山~松倉山(往復)
カテゴリー:雪山

2012年1月17-18日

 

ラッセルが予想される厳冬期に、わが弱小パーティがどんな山にいけるのか。当初は南会津の山にこだわっていたのだけれど、調べれば調べるほど頭を抱えてしまった。やはりまだ適期ではなさそうだ。そんな時、「小十郎」のこんな声が聞こえたような気がした。そして奥花巻の駒頭山がひらめいた。

「おらほうの山には、高くておっきい山なんかねがんべな。眺めだってよ、ちゃっけえ山のつらなりなんだべし。んだどもな、山にはめんけえブナの森があるべな。じぇんぶ切られてはしまったべども、まだまだおっきいブナだってあるべしな。えがったら見にきて来らんしぇ。」 (北上市出身のinariさんに添削してもらった40年前の花巻弁)

昨年9月に小空滝沢を遡行し、はじめて「なめとこ山の熊」の山域に足を踏み入れた。とりたてて顕著な山や沢があるわけではないのだけれど、これが宮沢賢治の童話の世界の原風景の一つなのだと、毒ケ森山塊にささやかな愛着が生まれていたのだった。

冬はアクセスが閉ざされる奥深い山域だが、スキー場を利用すれば雪の季節にも歩けるのではないかと考えた。年末に船形山で思わぬ新雪ラッセルに苦戦したので、計画はきわめて控えめにした。雪を踏みながらブナの森を歩き、駒頭山頂へ到達できれば、今の時期としては上出来だろうと。そしてできれば、変化のある尾根をたどって松倉山まで足をのばせれば、さらに充実した山旅になるだろうと。

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狙っていたわけではないが、たまたまJR東「大人の休日倶楽部」の特別キャンペーン期間中だったので、往復15000円の切符が利用できた。新花巻駅から鉛温泉スキー場へは車で30分ほどで、奥深い山に登るわりにはアクセスが便利だ。

平日なのでスキー場は閑散としていたが、久しぶりに見る真っ青な空に包まれて気分は華やいでいた。鉛温泉スキー場はリフトの稼働率100%を誇っているらしいが、残念なことに登山者は利用できない。目の前のチャンピオンコースは恐ろしく傾斜が急なので、まずはリフト沿いの緩い斜面を登ってから取り付き、そのままゲレンデ脇をリフト終点へ。

登山道のある尾根に乗ると人工物もなくなり、ここからが本来の雪山歩きとなる。しばらく降雪はなかったらしく、雪は意外なほど締っていて歩きやすい。まるで春山気分の快適な雪尾根歩きだ。このあたりのブナは二次林だが、時々伐採をまぬがれた大木が見られる。

一箇所550mで急登となる他は緩やかな登りが続き、長いなあと思うころようやく中間地点のロボット小屋に到着する。今でも使われているのか不明だが、中に入れるのでちょっとした避難小屋のようだ。小屋からはブナの大木が点在する広い尾根を下る。予想以上にすばらしいブナの森だ。

このあたりの大木は、太い幹が天空にまっすぐ伸びているのではなく、胸高の途中から多くの枝を縦横に広げている。その時は気付かなかったが、おそらく枝を広げた使い勝手の悪い大木だけが伐採をまぬがれたのかもしれない。

再び登りとなるが、ほんとうに緩やかな尾根だ。尾根沿いのブナは枝分かれもなく長身で端正な姿となる。今回の山行について、ネットの積雪期の記録が二つだけあり、それぞれを参考にさせてもらった。その一つはたまたま1週間前の記録。

ときどき拝見して参考にしている岩手の酔いどれさんは、ブナの素晴らしさが和賀山塊にも匹敵すると書いていた。写真を見る限り半信半疑だったけれど、実際に歩いて見ると800m付近のブナはすばらしく、ようやく納得できる気がした。ただ写真に撮るとその雰囲気が伝わらずに残念だ。

何本かのブナに標識が貼られていたので近づいてみると、昭和年代の伐採予定票だった。危ういところで伐採をまぬがれたようだ。今はブナ林の保護意識が官民に浸透しているはずなので、これ以上の手は加わらないことを願いたい。市街地に近い低山で、これだけ長い行程の間ブナ林が続く尾根は貴重だ。

850mのポコにのると、ようやく駒頭山が見渡せるようになる。まるで丘のようなずんぐりとした山だ。尾根はだだっ広い樹林帯の台地となり、山頂下へとつづく。予定していたテンバに着いたようだ。ほぼ予定通りの時間だった。雪は締っていたので整地も楽だ。今回は一回り大きなテントを持ってきたのでザックの収容も楽だし快適だったのだが・・・

二人にはスペースが広すぎて、ガスを使ってもなかなか温まらないことが判明。当たり前といえばそれまでだが、何事も体験しないと身につかないので、また一つ学習できたこととする。

翌朝はテントを置いたまま、まずは松倉山へ向う。昇りはじめた朝日を背に930mのポコへでると、今まで見えなかった尾根の反対側の展望が広がる。あたりは低い山並みが連なるが、北東の彼方には早池峰山がうっすらと聳えている。真北には真っ白な岩手山と八幡平連峰がなだらかな尾を引いている。大白森から八瀬森のブナ林も見事だった。いつか冬に訪れてみたいと思う。

緩やかなアップダウンを繰り返し、地図で予想したよりも距離感がある。けれどずっとすてきなブナ林が続いているのが嬉しい。行く手には左側が切れ落ちて真っ白な斜面の痩せ尾根が見えて来た。右手には白沢の源頭部と登山道のある白沢左岸尾根がのびている。「なめとこ山の熊」には中山峠や大空滝など、実在する地名がいくつか登場するが、白沢もその一つで、小十郎は最後に白沢の尾根で熊に殺されるのだ。

何度か越える小さなポコには雪庇が張り出し、昨日よりは尾根歩きに変化がある。進むにつれ雪深くなり、木々は雪の布団をまとっているようだ。そしていよいよ左側が切れ落ちて真っ白な痩せ尾根の取り付きへ。もう一つ参考にしたトマの記録では、ここが雪稜できびしそうだと書いてあり、スキーでは無理と引き返している。そこで念のためにアイゼンとピッケルを持参した。

けれど近づいて見ると急斜面ながら右側は樹林帯。結局シューをはいたままピッケルも無用で、ちょっとした木登りを交えてあっさりと通過できた。なんだ、大袈裟な書きぶりだなと思ったが、備えあれば憂いなし。これで良かったと思う。

痩せ尾根を登り切ると雪庇のポコとなり、こちらの方が山頂のようだ。再び大きく下り、最後は緩やかな尾根をたどって山頂へ。標識には駒頭山主峰ハイキングコースとある。たかだか1000mに満たない山のハイキングコースを歩いただけなのだが、硬雪に助けられたとはいえ、厳冬期に山頂を踏めたことが嬉しかった。

薄曇りのため遠くの山々は霞んでいるが、周りには見渡す限り全山ブナ林の低山が連なっている。1月の初登頂じゃないかなど、冗談をいいながら山頂をあとにする。すっかり目的を達してしまった気持ちになるが、メインコースの駒頭山はまだだった。冬芽でレンガ色に色づいたブナの山並みを見渡しながら緩やかに下る。登りは平気だった痩せ尾根も、下りは怖々だ。Yさんはあっという間に下ってしまったが、下りが苦手な私は冷や汗をかく。

テンバに戻り、そのまま目の前の緩やかな斜面を登って駒頭山へ。この山頂ものっぺりして山頂らしくない。樹林際にひっそりと立つ標識を写真に収め、もう一度あたりの山を見渡す。眼下の寒沢川はいくつか顕著な滝もあり遡行記録も見られる。いつか沢から駒頭山の緑に萌えるブナの森へ・・・なんて妄想が浮かぶ。

あっという間にテンバに戻り、下山の支度をする。まっさらな斜面を滑るように下る心地よさはたとえようがない。往路には黒っぽく見えたブナが復路では白く見える。黒い苔が片側だけに張り付いているからだ。長いコースなので、さすがに最後は淡々と下ってゲレンデトップへ。回り道をするのも面倒なので、急斜面のチャンピオンコースの端を怖々と下って駐車場へ戻った。距離が長い分だけここが核心だったかもしれない。

時間の余裕もあるので昨年の9月に立ち寄った藤三旅館の温泉につかって身も心も温まる。新年早々さい先の良い、みちのくのブナと温泉の山旅ができたことに感謝しながら帰路についた。

17日 鉛温泉スキー場10:30-ロボット小屋13:45-駒頭山頂下幕営地16:00

18日 幕営地7:00-松倉山9:20-駒頭山11:20-幕営地11:30/12:00-鉛温泉スキー場14:30