ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.12.20
船形山
カテゴリー:雪山

2011年12月20-21日

 

年を越す前にどうしても東北のブナの森を歩きたかった。天候が思わしくないため最後まで迷い、天気のいい関東以西の山に行けばいいじゃないかという思いもちらついた。けれど最後は行きたい気ちを大事にして決めた。

11月中旬に船形山と長倉尾根を繋いで晩秋のブナの森を堪能する縦走計画を立てたのだが、悪天のため予定を変更。奥多摩の長沢背稜を歩いた。その時から心残りの山だった。

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新幹線とレンタカーといういつものパターンで登山口のある内水面水産試験場へ向う。平日のため市内で多少の渋滞に巻き込まれ予定より30分ほど時間がかかってしまった。厳冬期でも水産試験場までは除雪が行われているため、船形山は冬でも入りやすい。

試験場手前の空き地に駐車して歩き始めるが、除雪は試験場入り口まで。ここでさっそくスノーシューをはく。シーズンはじめで足取りが重く感じられるが、雪山始めの実感がわいてくる。

登山口には30番の赤い丸プレートがあり、1番の山頂まで続く。標識によると山頂まで7.2㎞なのでプレートの間隔は約250mとなる。トレースがなく視界が悪い時には大変心強いはずだ。だから、すてきなブナ林に大きな赤いプレートは目障りだなんて思ってはいけない。

登山道には単独者のトレースがあったので、嬉しいようながっかりなような気持ちだったが、登り始めてすぐにその単独者が下ってきた。話を交わすと登山道から1㎞ほどの旗坂平でツェルト張りの練習をしてきたとのこと。

聞いたとおり旗坂平からはトレースのないまっさらな雪面となる。雪に覆われたブナの森。「ブナの沢旅」にふさわしい雪山始めのセッティングに頬が緩む。予想以上に新雪が積もっており、ヒザ程度のラッセルが続く。ただ、下草の笹はまだ埋もれていない。2009年の2月下旬に来たときとどこか印象が違って感じられたのは、あの時は笹が完全にかくれて雪面からブナだけが林立していたからだろう。

歩き始めたときは高曇りだった空はしだいに小雪混じりとなり、風も冷たい。高度計の気温はマイナス8度を示していた。ときどき地図で現在地を確認するも遅々として進まない。ラッセルは疲れる前に交代しようと、わずか5分交替にしたのだが、それさえも長く感じられるようになる。雪山始めは軽い足慣らしのはずだったのに、これじゃあいきなり厳冬期山行だねと苦笑し合う。

三光の宮に近づくと地形が判然としなくなり、赤テープを探しながら進まないとお手上げ状態だ。おまけに低灌木帯に雪が被さりこれまでのようにラッセルだけではすまなくなる。前回はこの付近で進むべき方向を失ってしまった。いくら探してもプレートが見つからず、とうとう諦めて蛇ケ岳への尾根に登った場所だ。

すでに3時半をまわっている。升沢小屋まではまだまだ遠く小屋泊まりは無理そうだ。前回のミスを繰り返さないよう慎重にルートを探る。予想よりもかなり尾根の下をトラバースしていくとプレートが出てきて小躍りする。ようやく迷路を抜け出すことができた心境だった。

冬至の日は短く、とくに山ではあっという間に暗くなるので、テント設営の時間を考慮すると4時がリミットだ。少し下り平坦な台地となったところで行動を終えることにした。ふわふわの新雪なので整地に時間がかかったが、テントに入り、ダウンを着込んでようやく人心地つく。

この調子では船形山までは到底無理だろうと感じられた。せめて前回見つけられなかった升沢小屋までは行こうという程度の気持ちでシュラフにもぐった。

降り続いた雪も夜半にはやみ、遠くで聞こえた風の轟音もやんだ。夜中に目覚め喚起口から外を覗くと月が出ていた。翌朝は5時起床の予定がグズグズしてしまう。テントをそのままにして7時過ぎに出発。予想に反して天気がよく、気分も前向きになる。ひょっとして山頂を踏めるかもしれないと、欲もでてくる。このときはまだ楽観的だった。

昨日はガスであたりの様子がわからなかったが、樹林の間から真っ白な前船形山が見えて来た。空はますます青くさえわたり、奇跡のような好天となる。ときどき道を探りながら、藪っぽい斜面のトラバースをつづける。2度沢筋を越え、少し下り気味に進んで行くとようやく升沢小屋が見えて来た。背後には船形山も姿をあらわす。ふうっ、ようやく小屋にたどり着いた。登山口から8時間もかかってしまったが、これで前回の「雪辱」をはたしたわけだ。

さて、ここからのルート取りをどうするか。登山道は小屋の3、4m下にある沢筋についているが、沢にはくるぶしほどの水があり、両岸の雪壁が張り出していて歩けそうにない。他に積雪期のルートを示す印を探しても見当たらない。そこで沢の左岸に張り出している尾根に這い上がることにした。

雪壁のような斜面を難儀しながら登り、広い尾根に乗った。するとそこにはすばらしいブナ林が広がっていたのだった。予想外の光景に感激もひとしおだ。さらに登って行くと霧氷の花が咲き始め、青空の下でさらに美しさがます。山頂へ至らなくても、この森を歩けただけで幸せだと感じられた。

登るにつれ樹木は矮小化して歩きにくくなる。淡々とラッセルに励み、ふと目を上げて振返る。そこにはモコモコとした霧氷のブナに覆われた山並みが広がっていた。蛇ケ岳から三峰山へとつづく山並みだ。その美しさに思わず息を呑む。春山になってしまうとなかなか見られない光景だ。

さらに登ると船形山の小屋が見えて来た。二人で思わず歓声をあげる。意外に近くみえる。なんだか行けそうな気になってくるが、ラッセルは一向に楽にならず時間ばかりが過ぎていく。テントを撤収して明るいうちに下山するには12時がタイムリミットだ。少しでも近づきたくて最後は悲壮感さえただよう雰囲気で猛突進する。

すると後ろからYさんに呼び止められ、いつもと違う真剣な顔つきで、いつまで進むつもりかと問いかけられる。どんなに頑張っても12時には到底間に合わないし、もう疲れたという。せっかくあと一歩まで近づいたのだから、最後はヘッデン下山になっても行きたいと思ったけれど、私たちはいつもコンセンサスで物事を決めてきた。確かに、近そうに見えてもまだ厄介そうなシュカブラ帯を越えて100m近く登らなければならない。残念だったが、1400m地点で撤退を決めた。

あ~あ、また振られてしまった。船形山はなかなか私たちを登らせてくれない。だからなおさら想いがつのるのだ。つい先ほどまでの青空は消え、不吉な雲が出始めていた。真っ白なブナの山並を見下ろしながら山を下る。こんな急斜面をラッセルしてきたのかと感心しながら、あっという間にテントに戻った。

降り始めた雪の中、急いで荷物を撤収し下山を始める。帰りは下りだしトレースもあるので楽だと思ったが、昨日からの雪でトレースも消えかかり、トラバース道ではふたたびちょっとしたラッセルを強いられる。下るにつれ天候は悪化。ときどきザックの雪降ろしをしながらなんとか予定の4時前に登山口に降り立った。

今回も山頂を踏むことができず最初は悔しい気持ちだったし、もうラッセルは当分遠慮したい気分にもなった。けれど今になって、むしろ悪天候が続く中で青空に恵まれ、すばらしいブナの山にどっぷりとひたることができた幸せを感じる。充実過ぎるほどの雪山始めとなり、スタンダードが一挙にグレードアップ。さあ、今シーズンはどんな雪山体験ができるのか楽しみだ。

20日 駐車地点10:10~船形山升沢コース登山口10:38~三光の宮入り口15:30~幕営地15:50
21日 幕営地7:10~升沢小屋9:25~1400m地点(撤退)11:40~幕営地13:18/13:50~登山口15:40~駐車地点15:55