ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.08.24
鳴岩川河原木場沢
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2011年8月24日

 

ひょんなきっかけで初めて無雪期の八ヶ岳を訪れる機会をえた。超メジャーな山域には縁がなく、これまで2度の雪山経験があるだけだった。けれどこの夏、ブナの沢旅パートナーが八ヶ岳の麓に滞在中のため、この界隈で楽しめる沢はないかと情報収集。そして今回、「ナメと八ヶ岳一の大滝、ツメの草原」に惹かれ、河原木場沢を選んだ。

それほど長い沢ではないが、最近は天候不順で夕方になると大雨に見舞われる可能性が高いため、早立ちを心がけることにした。前夜のうちに茅野に移動し、翌朝は5時すぎに出発して河原木場沢の醤油樽ハイキングコース入り口へ。少し戻った駐車スペースに車を止め、沢支度。醤油樽大滝まではハイキングコースで、沢沿いに遊歩道がある。

最初は遊歩道を歩くが、ナメが出始めたところで沢床におりて遡行をはじめる。小ぶりながらきれいなナメが続き、リラックスムードとなる。さっそく一の滝があらわれる。ハイキングコースなのでしっかりとした梯子がかけられている。梯子を登り、ふたたびナメ床をヒタヒタ歩いて行くと前方がゴルジュとなり奥に二の滝が見えて来た。沢におりて滝を観察する。直登した記録もあるようだが、ずぶ濡れになること必須の模様。

滝手前の右手斜面を這い上がって遊歩道に戻りしばらく進むと両岸が大岩壁となり、いよいよ河原木場沢のハイライトとも言える醤油樽の滝が見えてきた。落差40mの八ヶ岳一の大滝と言われているらしい。前回のシレイ沢の白糸の滝のように、スラブ壁を一筋の糸となって滑らかな流れを落としている。うわっ、すごいと思わず息をのむ。長い鉄梯子を下って滝下に近づいてみた。真下から見上げる滝はとても不思議な光景で、醤油樽の滝という名称をなるほどと思う。まさに大きな樽の底から見上げているように見えるのだ。いつもながら、自然の造形美に感嘆させられる。

ひととおり景観を楽しんだあとは、課題の大高巻きだ。まずは梯子を登っていったん遊歩道に戻る。両岸は高い岩壁に阻まれているため、かなり戻ってから右岸の小尾根に取り付く。このあたりは踏み跡が明瞭だ。少し登ったところで右の岩壁方向にトラバースする踏み跡もあったがここを進むと行き詰まる。左の踏み跡を登って樹林帯に入り、ひたすら巻き上がる。

沢からどんどん離れていくので不安になり、ときどき右方向にトラバースしてルートを探るが、すぐに岩壁に阻まれてしまう。いくらなんでもこれ以上巻き上がるのはおかしいと思い、ふたたび岩壁方向にトラバースするとようやく下の様子が見えた。そこはゴルジュの2段滝のようで、とてもおりられる場所ではなかった。

こうなったらどんどん巻き上がるしかないと腹をくくり、さらにトラバースをつづけると山腹は緩やかに左にカーブして行き、右下に沢が近づいて来た。少し先に下れそうな尾根の張り出しが見え、ようやく沢に降りることができた。この時はどれだけホッとしたことか・・・

降り立った沢床の先は滝の落ち口で、正面は大岩壁となって切れ落ちていた。ひょっとしてここが大滝落口なのかなと思うが、途中で見下ろしたゴルジュ滝をかなり巻いた先に降りているのでつじつまが合わない。けれどその時は、とにかく核心部を越えたという安堵感であまり考えず先に進んだのだった。

(帰宅後、醤油樽の大滝の高巻きの件が気になり、2年前に遡行しているkukenさんに問い合わせてみた。しつこく何度もメールで、ネットで落ち口の詳しい写真を探したりしてようやくわかったのは、途中で見下ろしたゴルジュ滝は傾斜がゆるんだ大滝上部のようで、高巻いて降り立ったところは大滝上のナメ滝の落口だった。近いとはいえ、ずばり大滝上に降りることはできず下降点を見逃してしまったのが悔やまれる。なんだかいつも同じことを言っている気がするが・・・)

大滝から先は渓相もふたたび穏やかとなり、きれいなナメやナメ小滝がつづいてとても快適に進む。途中のひらけた川原にはすでに開花を終えたクリンソウが群生していた。花のシーズンを想像するとまた来てみたくなるほどだった。

倒木の4mナメ滝を越えると上はさらに美しいナメがつづき、河原木場沢はほんとうにナメだけの沢なのだと実感する。倒木帯を越えてしばらくするとナメ小滝の先に斜度のある滝が見えて来た。ここが第二の核心となる10m2段滝だ。事前情報で直登は難しいと思ってきたが、右岸の草付きの巻きも悪そうに見える。ここは直登にトライしてみることにした。

下段を左側の岩壁から登ったが、途中一箇所思い切りがいるところがあった。上段下のバンドでロープを出してsugiさんを確保。上段も左の水際が細かいけれど行けそうと、今度はsugiさんがそのまま登ることになった。上部で手がかりが乏しくなったが、フリクション頼みで慎重にクリア。こうしたちょっとした頑張りがあると、充実感もアップするものだ。

滝上は穏やかな小川のようになり、流れがしだいに細くなっていく。最後の4mハング滝を右から小さく巻く。このあたりからナメ床が岩畳風に変わり、二俣となる。右俣へ進むとしだいに傾斜をまし前方には稜線が遠望できるようになる。青空も広がりはじめ、アルペン的な開放感がただよう。さあもうすぐフィナーレの草原だ。

ふたたび二俣となったところで左俣の前方を見上げ、予想もしていなかった大岩壁にびっくりする。よく見ると左側のガレ斜面に細い水流が認められ、一番手っ取り早く稜線の登山道に抜けられるルートとなっている。右へ進むと両岸は草地となり、しだいに沢型が判然としなくなる。振返ると深く切れ込んだ谷の向こうには中央アルプスの山並みが見渡せる。さすが高山地帯の沢登りだと感激。中央アルプスのさらに奥には御嶽山が雲の上にそびえている。すべてが新鮮な光景だった。

窪地のような草地を上って行くと窪もなくなり、広々とした草原となる。虫もまったくいなくて快適だ。お花畑と言うほどではないが、ピンクや白、黄色の小さく可憐な花があちこちに咲いていて、おびただしい数の小さなチョウチョが舞っている。

さらに登って行くと右手には赤岳と阿弥陀岳が手前の尾根の上に頭を付きだしている。草地はいつの間にかガレ斜面となる。落石に注意しながらひと登りで稜線直下に至ると、右手に樹林の小尾根が近づいたのでトラバース。すると踏み跡があらわれ、あっという間に登山道に飛びだした。

藪こぎが一切ない非常に爽快な詰めだった。醤油樽の滝の高巻きでもたついたが、遡行時間はちょうど5時間。コンパクトな沢ながらいろいろな要素が凝縮した興味深い遡行だった。珍しい光景の大滝を鑑賞し、大高巻きで苦労して美しいナメに和み、滝登りにチャレンジして、最後は突き抜けるような青空のもとで中央アルプスや八ヶ岳の山並みを展望しながら草原を詰めあがったのだ。

この夏は天候不順のため八ヶ岳はいつも雲に隠れていたという。これだけ展望がいい日は珍しいという言葉にさそわれ、予定を変更してプチ縦走を楽しみながらの下山路をたどることにした。ゆっくりと休憩を取っていつもの「山スカ」ハイカーに変身し、天狗岳方面へ向う。登りが少し苦しかったが、たどって来たルートを一望できるすばらしい展望に苦しさを忘れるほどだった。西天狗でまずはベーシックな山座同定をして地形の概念を頭に入れる。天狗岳に進むと登山者とすれ違うようになるが、平日のせいかそれほど多くはない。

天狗岳から根石岳へ向う鞍部の右手はなだらかなカール状の地形となっており、地図を見るとシラナギ沢の源頭部だ。なんだか興味をそそられ帰宅後「登山体系」で調べてみると、大滝が一つあるだけの初級の沢とある。何もない沢でもバリエーションルートと思えばこのカールに詰め上げるなんて素敵ではないかと妄想。

根石山荘へ向う登山道は両側にロープが張られており、よく見るとコマクサの群生地を保護していることがわかった。山荘は入浴ができるらしい。これだけ高い所でどうやって水を確保しているのかと思ってしまう。登山道はすぐに樹林帯に入り、緩やかに高度を落としながらオーレン小屋へ。

増築されたらしい立派な建物にこれが山小屋?と感心することしきり。なにしろ初めてのコースなので、すべてが新鮮でもの珍しいのだ。多くの登山者がくつろいでいた。ここからは沢沿いの登山道が林道のように広がってさらに歩きやすくなり、小さな水力発電施設が目にとまる。

さらに下ったところの夏沢鉱泉には屋根の上に小さな風力発電装置が数基備え付けられていた。八ヶ岳は登山者も多いメジャーな山域なので、山小屋の自然エネルギー活用のモデルケースになっているような印象を受ける。

車道を淡々と下って桜平のゲートへ。一般車はここまでしか入れないようだ。さらに醤油樽ハイキングコース入り口まで2㎞ほどの道のりだが、同年代のご夫婦の車に拾ってもらい、最後は楽をして駐車地点に戻ることができた。下山路を変更してよかった。標高差が大きい遡行後のアップダウンは堪えるが、まれにみる好展望の一日に恵まれ、北八ヶ岳の魅力的な周遊コースを歩くことができた。(sugi、ako)

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醤油樽の滝ハイキングコース入口6:25-醤油樽の滝7:10-醤油樽の滝上8:28-2段10m滝9:15-二俣10:10-登山道11:10/12:00-西天狗岳12:35-天狗岳13:03-根石山荘13:40-オーレン小屋14:20/14:30-夏沢鉱泉14:57-桜平15:18-(ヒッチハイク)駐車地点15:30