ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.06.03
大行沢~北石橋~大東岳~穴堂沢
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2011年6月8-9日

 

沢シーズン始めの遠征は、昨年同様仙台の奥座敷二口で、文字通りのブナの沢旅を楽しもうと小松原沢に出かけた。大震災後のことで最初は気がとがめたりもしたが、忘れないでかかわり続けることが大切なのだと気持ちを切り替え出発。

ところが現地につくと想定外の事態に。アプローチの林道が完全閉鎖で人も通さないという。直前に車が通行止めになっていることを知り、あわてて県の担当部署に問い合わせた所、白糸ノ滝まで人は通行できることを確認できたので予定通りやって来たのに・・・

警備員に事情をはなしてもダメの一点張り。Yさんが県の担当者と連絡をとった所今度は通行できないと言われる。釈然としなかったが、気持ちを切り替え、地図とにらめっこしてすぐに代替コースを考える。大好きな二口はこれまで何度か入山しており、イメージがつかみやすかったことが幸いした。

去年穴堂沢を遡行したときもいくつか予定外の要素が重なり、かなりのコース変更となった。そこで、今回は去年の宿題を片付けるのも悪くないと思った。北石橋へ行き、大東岳へ登り、穴堂沢源頭部と登山道の位置を確認すること。こんな機会でもなければ思いつかないような変則的なコースだが、災い転じて福となす。そういえば、これまでもいろいろなハプニングがあったよねと、笑い話に花を咲かせながら大東岳登山口へ移動。

大行沢の下流は大岩ゴーロやゴルジュで難儀しそうなので、しばらくは登山道を進む。エゾハルゼミの鳴き声をきくと、ああもう夏なのだなあと思う。残雪の矢筈岳に登ってからまだ一ヶ月しかたっていないのに季節はあっという間に変わり、白から緑の世界へ。このところ立て続けに外に出る機会があったせいか、日本の自然の移り変わりはほんとうに美しいと思う。

しばらくすると右手奥に大岩壁から水しぶきを落とした雨滝が見えてきた。ザックを置いて滝下に近づくとマイナスイオンたっぷりの涼しさが気持ちいい。出鼻をくじかれたこともいつの間にか忘れてしまった。

ケヤキ沢をこえ、登山道が沢に近づくあたりで踏み跡のある斜面を下り、沢に降りた。沢支度をして、ここからがいいとこ取りのナメ沢歩きとなる。大行沢は2007年5月にブナの沢旅で始めて遠征した沢なので思い出深い。ヒタヒタとナメ床を歩く心地よさはその時も今も変わっていないが、明らかに倒木がふえている。大震災の影響かどうかはわからないが、かつて三大ナメ沢の一つといわれていた叶堂沢の惨状を思いだし、行く末が心配になる。

北石橋への登山口を示す標識が見えてきたところで、ザックをデポしてしばし考える。カケス沢から入りたかったが、詳細地図も遡行図もなく取り付きがわからない。一方目の前にはとても快適そうな登山道。

そこで行きは登山道、帰りは沢下降などと安易に提案してまずは登山道へ入ると、すぐに左手に楚々とナメ沢が流れている。カケス沢の出合は気付かなかったが、コンパスをふると方向が合っている。ならばと、これまた安易に沢を遡行することにした。

すぐに二俣となり、北石橋のある右俣へ。しばらくはナメと小滝を快適に越えていくが、沢が右に曲がる手前から倒木が煩わしくなり、早くも雪渓があらわれた。その先には垂直5m滝が見える。右手から明瞭な巻き道をたどって沢床に降りるが、まるで別の沢のように雰囲気が一変し2段12m滝が立ちはだかる。そして左手には、まるで越後のような広大なスラブが広がっている。カケス沢は去年あわよくば遡行できるかもしれないと期待して調べてはいたが、具体的なことは覚えていないし、遡行図もない。

左側手前の草付きスラブから高巻くが、どんどん上に追い上げられ小尾根にのる。下降点をさがして見下ろすと、12m滝上から先もゴルジュが続き、しかも完全に雪渓で覆われているではないか。その様子を見るや、もうダメだと思う。今からなら登山道に戻っても間に合うはずと、すぐに撤退を決める。かなり悪い高巻きだったが、いいトレーニングになったと思うことにして振り出しへ戻る。

散々なのだが、トライしたので悔いを残さずに登山道を行くことができてよかったし、もし帰りに沢下降していたら、これまた大変な目にあっていたはずだ。登山道はかなり迂回したルートだが、ブナの原生林がすばらしいコースだった。

登山道は小一時間ほどで北石橋の少し上流で沢を横切る。思わず歓声をあげてしまうような奇景だ。岩の大門の中を、ナメ滝が楚々と水流を落としている。やはり下から見上げてみないとその良さはわからないだろうと思い、水流右側の岩の斜面をずり落ちるようにして沢床へおりた。やはり圧巻だ。自然の造形美の偉大さに感嘆せざるを得ない。今回の事態がなければ一生来る機会がなかったかもしれないと思うと、ほんとうに来てよかった。

北石橋の上も岩壁沿いにナメが続いていたので少し登って先の様子をうかがい、来た道を戻ることにした。あっという間にザックのデポ地に戻り、つぎはテンバ探しだ。最初は樋ノ沢避難小屋とも思ったが、せっかくテントを担いできたことだし、沢の近くで焚き火をしたかった。そう思うと、今立っているこの場所は絶好のロケーションにある1LDKの好物件で倒木も豊富だ。なんだかんだと珍道中になってしまったが、今シーズン初の盛大な焚き火を楽しんで1日目を終えた。

久しぶりに山で熟睡できたおかげで、早朝鳥のさえずりで目が覚めた。すこし肌寒かったのでさっそく焚き火を起こす。清々しい山の空気に溶け込んでいく焚き火のけむり。自然の炉端でたきぎをくべながらまったりとした時間を過ごす。

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出発するまえに沢に降りてナメ床を散策し始めると、すぐに数本の倒木群に遮られてしまう。まだ真新しい倒木だ。大行沢はこれからどうなるのだろうと思いながら登山道へもどり、まずは樋ノ沢避難小屋へ。ここからは初めての大東岳をめざす。

あたりは鬱蒼としたブナの原生林だ。最初は開けた涸沢沿いを進み、850mを過ぎたあたりから沢を離れてジグザグの急登となる。25000地図の破線は尾根を回り込むようについているが、実際には東向き一直線で、1250mで地図とかさなる。

あまり歩きやすい道ではなく、ザックの重さと相まってとても苦しい登りだった。おまけに暑さで汗だくとなりながら、牛歩の歩みでようやく急登をやり過ごすと、「弥吉ころばし」と書かれた標識が立つ広い尾根にでた。そうか、山の主の弥吉さんでもころげ落ちるほどの急坂なのね、と納得。

一挙に展望が開け、今までの苦しい登りが報われる。緑あざやかな山並みが広がり、顕著な山容の仙台神室が近い。その奥には山形神室、さらに彼方には蔵王連山が一段と高い。ほんとうなら山形神室から大東岳を展望するはずだったのにと思うが、すでに遠い昔のできごとに感じてしまう。

もう山頂にたどり着いた気分だったが、ここからが傾斜はないが意外に遠かった。ニリンソウが咲き乱れる低灌木帯の道を緩やかに登ってようやく山頂へ。1366mの低山ながら、とても登りがいのある山だ。

目の前には大東岳を小ぶりにした小東岳がデンと構え、その奥におなじみの南面白山。あの山から新緑と雪の大東岳を眺めていつか登りたいと思っていた。だからうれしいのだけれど、今山頂に立ってみて、やはり大東岳は近くの山から眺めた方が味わい深いと思った。

山の方向盤を見ながら山座同定を楽しんで山頂をあとにする。ここからは権現様峠へ向けて地図の破線登山道を下る。恐ろしく急な斜面を一直線に滑り降りるように下るとしだいに沢の源頭部のゴーロとなる。満開のシャクナゲがあざやかだ。さらに下ると雪渓があらわれ、沢筋が完全に雪で覆われる。例年の様子はわからないが、やはり今年は残雪が多いようだ。

しだいにあたりが開けた沢らしい様相となり、両岸には大輪のシラネアオイが群生している。それにしても、この沢が登山道なんて東京周辺ではありえない。水量しだいでは靴を濡らさずに歩くのは大変なはず。さすが東北の登山道だね、などといいながら沢をジャブジャブ下っていく。沢が東に向きを変えるころから権現様への道を注意しながら行くと、確かに左岸に斜面を登っていく明瞭な道があった。

去年はもっと沢の下流から斜面に取り付き、やっと道をみつけた。どうなっているのか知りたくて登山道をたどってこの場所に降り立った。けれどここから先の道がかわからず、不思議に思いながら戻ったのだった。今ようやく納得。このあとの道は沢そのものだった。これですっきりしたと、ここで明瞭な登山道をわけ、さらに沢を下る。

しばらくゴーロの単調な下りが続く。こんなにゴーロが長かったかなと思うころ、ようやくイメージしていた穴堂沢のナメがあらわれた。早朝から急登急下降の連続で疲れてしまい、早めのソーメンタイムを取ることにした。沢での楽しみとしてすっかり定着したが、今年は何か新しいものを加えてみようかなと思う。

のんびり休んで元気を取り戻し、沢を下る。登るときは問題なかったナメ滝も下りとなると厄介で、けっこう時間がかかる。そして心配していた核心部のゴルジュ滝へ。なにしろ急遽決めたコースなので、去年遡行しているとはいえ具体的なことは覚えていない。

高巻きルートを探すのに手間取る。結局おそろしく大きく巻いて最後は馬の背のような尾根直下で行き詰まる。一瞬間違えたと思ったが、よく見ると崖の斜面に残置ロープがあった。ロープを頼りに怖々とトラバースして尾根に上がって少し進むと眼下に枝沢が見えてきた。けれどほとんど垂直の崖で降り口がわからない。ふたたび戻って傾斜の緩そうな斜面を見つけ、最後は懸垂で沢床に降りると、ちょうどゴルジュ入り口の手前だった。ふうっ、ヤレヤレ、ほっ。

(家に帰って高巻きルートを確認すると、枝沢を少し登ってからトラロープの垂れている急斜面の崖を登っていた)

ここからは悪場もなく、ナメやナメ滝をどんどん下る。穴堂沢も大行沢ほどではないが去年よりは倒木がふえていた。この沢は下るよりも登った方がきれいだし楽しめると思った。ミニゴルジュを越えると猿倉沢が出合う。ここまでは林道が延びているので、取り付きやすそうな斜面を探して林道に這い上がる。

急ごしらえのコースは予想以上に大変だったけれど、去年の宿題をすべてクリアできて満たされた気持ちだ。靴を履き替え、水を含んでさらに重くなったザックにあえぎながら長い林道を歩く。今は完全に車が通行止めになっていて車道近くには頑丈そうな真新しいゲートができていた。車道脇にザックをデポし、さらに大東岳登山口へ戻って車を回収して仙台駅へ戻った。

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8日 大東岳登山口10:40-大行沢入渓12:45-北石橋16:15/16:40-テンバ17:10

9日 テンバ6:05-大東8:35/8:50岳-穴堂沢10:30-林道14:50-大東岳登山口17:10