ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.05.21
浦山川冠岩沢
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2011年5月21日

 

埼玉県で一番大きなブナが冠岩沢にあることを知って以来、いつか見に行きたいと思いながら時間がすぎた。今年の3月末に大ドッケのフクジュソウ群生地を訪れ、浦山川地区のことを知る機会をえた。そのとき同じ浦山川に連なる冠岩沢が目にとまり、薄れかけていた意識がよみがえった。そこで、新緑のときにブナの巨木に会いに冠岩沢を計画しようと決め、今回実現させた。

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まだ記憶に新しい浦山ダム沿いの立派な道を通って、まずは浦山大日堂をめざす。今回はさらに浦山川沿いの林道を進むと分岐となり、進む方向に通行止めの表示があらわれる。車が入っているようだったのでそのまま進むと、ちょっとした広場となり、焚き火の跡があった。ここに車を止めて出発する。

すぐに古い鉄の橋を渡ると山道となる。鳥首峠への道を分け、踏み跡にそって植林帯を登ると苔むした石積の台地があらわれ、古い家が建っていた。庭先に足を踏み入るとまるでタイムスリップしたようだ。家の中には洗濯物まで干してあり、今でも人が住んでいるようにみえる。

奥には沢水を引いた天然の水道があり、その下には流しがあって大きな釜が置かれている。今ではすべてが苔むしているが、生活の様子が目に浮かぶ。

かつて冠岩集落には6軒の家があったが、すべて同じ姓だったとのこと。各地にある落人伝説がこの地にも伝えられているようだ。興味がつきないが、集落跡はほんの通過点。朽ちた鳥居と社を通り抜けて山道をしばらく登っていくと植林帯の斜面が広がり、道が判然としなくなる。一旦沢から離れるが、ふたたび近づいたところで古い木橋が見えた。ここが予定していた680m入渓点のようだ。

急斜面を適当に下って沢に降りるが、倒木で荒れていたので少し沢沿いの道を進むことにした。沢支度をしようと川辺に降り立つと、あちこちに黄色い可憐なヒメレンゲが群生しており踏まないように苦労する。

植林帯なのだが、沢沿いは自然林が残されているので新緑が木漏れ日にかがやき、足下にはヒメレンゲ。沢自体は小ぶりで平凡なゴーロ歩きだが、これだけの演出があれば、どんな沢だって楽しくないわけがない。

今回の最大の目的は埼玉県一のブナの巨木を訪ねることなので、沢への期待度はそれほどなかったが、平凡な渓相はすぐにあらわれた2段15m滝から一変する。もちろん直登は不可能だが、事前情報通り左壁が登れそうだ。ここはロープを使うつもりだったが、二人でじっくりとルートを目で追い、フリーでも行けそうだとさっそく取り付いてしまう。

途中少しいやなところがあったので、中段上の立木に支点をとってロープを出すことにした。すでに途中まで登っていたYさんを確保して、そのまま滝上まで登ってもらうことにした。先週鷹ノ巣谷でロープ使用の原則を確認したばかりなのにと反省するが、冒険心がくすぐられ、面白かったねと言い合う。

滝上はすぐに二俣となり、進む右俣にはふたたび5m滝が二つ連なっている。入渓したところからは想像がつかない展開に、まるでみにくいアヒルの子が白鳥になったみたいと、以前もどこかの沢で感じたようなことを口にする。

調子にのって最初の5m滝は水流を直登するが、案の定最後に行き詰まる。右岸を小さく巻いたsugiさんにお助け紐を出してもらい、情けないことにゴボウで抜ける。つぎの5mは左壁際を慎重にトラバース。

中流域からは両岸がすべて自然林となり、ブナが目立つようになる。左岸に古いワサビ田跡があり、その先でゴルジュとなる。トイ状小滝が続き、ヒメレンゲを楽しみながら越えて行く。

そしていよいよ前方に25mスダレ状大滝があらわれる。黒々とした岩盤の大滝が黒光りして威圧感を出している。一段高い所にある釜の縁はヒメレンゲの大群生に縁取られコントラストが美しい。さてと、高巻きルートをさがす。左岸横の窪は上が悪そうなので、少し戻って小尾根に取り付く。滝の落ち口を過ぎたあたりから適当に斜面をトラバースして沢に降りたが、足下が崩れやすく、それほど簡単ではなかった。

これで沢登りのお楽しみは終わった。つぎはブナの巨木探しだ。と、思った矢先、左手斜面を見上げてわぁっと歓声。大木が逆光で黒いシルエットとなって浮かび上がっていたのだ。すぐにお目当てのブナだと直感(というほどでもないが・・)。それほど苦労してたどりついた訳ではないが、15m滝をよじ登り、大滝を大高巻きした後の対面は、この出会いをドラマチックにするための演出だとすれば、効果抜群だ。

事前に明確な位置がわかっていたわけではないのでとても嬉しく、ザックを放り出して斜面をかけ登った。近づくとさすがに大きい。胴回りは4.53mとのこと。鍋倉山のブナ太郎より大きい。左右に大きく広げた枝の片方は数年前に折れてしまい、いわば片肺の古老だが、足下はまだまだしっかりしていて安心する。この場を去りがたく、ここで昼食の大休憩。しばし穏やかで心休まる時を過ごす。これからは、この安らぎを求める沢旅の季節が始まったことを実感する。

沢はふたたびゴーロときどき小滝となり、緩やかに高度をあげていく。ふたたび顕著な8m滝があらわれ右から巻くと、両岸がひらける。すぐに二俣となるが、ブナ林の台地が広がりとても気持ちがいいところだ。右へ進むとすぐに水が涸れる。しだいに源頭部の様相となり、2回あらわれる小さな二俣はいずれも右に進むと前方に稜線が見えてくる。1175mのコルをめざし、最後は落ち葉の積った急斜面をラッセルさながらひと登りで登山道へ抜けた。

さっそくハイカーの往来があり、随分とよく歩かれているコースのようだ。暑さで汗だくだが、鞍部を吹き抜けるそよ風が気持ちいい。ここで靴を履き替え、大持山へ向う。あっという間の距離だが、すれ違った中高年の大パーティから、もうすぐ山頂だから頑張ってと励まされてしまう。はい、ありがとうございます。でも心の中では、大滝登ってブナの巨木に会ってきたのだと誇らしい気持ち。

妻坂峠分岐で東側の植林帯もなくなり、展望が得られる。大きなブナやミツバツツジが点在する道を緩やかに登って山頂へ。意外に狭い山頂は10人ほどの若者グループが休んでおり、彼らの横にはアマチュア無線愛好者らしい男性が店開きをして大声でひっきりなしに交信しており、かなりやかましい。

せわしないのですぐに山頂をあとにして西尾根へ向う。登山道ではないが、下草もなく歩きやすい尾根だ。赤テープも多く、かなり歩かれているようだった。何よりも嬉しいのはブナの大木が多いこと。冠岩沢側の斜面奥には立派な巨木も見られ、中に分け入りたくなるほどだった。

1142mから南にのびる尾根に入るとしだいにやせ尾根となり、雰囲気がらりと変わる。冠岩沢側は植林帯となり、反対側は常緑樹が混在する雑木林風で、三浦半島の林層のようだ。さらに下ると完全な植林帯となり、二つ目の鉄塔へ。ここから尾根を外れて巡視路をたどると、車を止めた林道広場近くに降り立った。

廃墟巡りから始まり、ヒメレンゲの群生する沢ハイキング、新緑シャワーの大滝巡りにブナの巨木探索、賑やかな山頂から静かなブナの美しい尾根と、コンパクトなコースながら見所満載の自然のテーマパークで遊んだ一日となった。

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冠岩林道終点9:05-15m滝10:30-25m大滝11:40-登山道13:25/13:45-大持山13:57-林道終点15:25

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