ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.02.02
二岐山
カテゴリー:雪山

2011年2月2日

 

ようやく待ちに待った南会津の山へ行くことができた。当日は日本列島がすっぽり高気圧に覆われるという、多分今シーズン初めてのハレの日。この好機を逃す手はないとブナの沢旅で南会津オープニングとなった。

急遽計画したので朝立ちできて山頂を踏めそうな二岐山を選んだ。一昨年の秋に男女川を遡行して境界尾根に詰め上げたとき、尾根をたどると二岐山だと言うことがわかり、いつか山頂から男女川の源頭部を眺めてみたいと思っていたのだ。

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郡山から国道118号線をへて二岐温泉を目指す。途中羽鳥湖手前のつづら折りの山道は「無散水消雪道路」と表示されており、この区間だけ普通の乾いた道路だった。新しい設備が道路脇に点在しており、最近できた「床暖房」道路のおかげで急なカーブの連続も安心して通行できた。

国道とわかれて二岐温泉への道に進むと、前方に真っ青な空に雪をかぶった双児峰の二岐山が美しい姿をあらわし、心が躍る。ぶな山荘前の駐車場に車を止め、ここからスノーシューをはいて出発。冬の二岐山はスキーヤーに人気のある山らしく、厳冬期でも比較的人が入っているようだ。好天とはいえ平日なので、当日の先行者はなく、古いトレースも見当たらなかった。

取り付きがよくわからなかったが、小さなスキー場跡の雪原に入ると前方にわずかに頭を出した山頂が見えた。さあ、今日はきっとあの頂まで登れるはず。雪原を沢沿いに進むと、右手の尾根と合流。植林帯を抜けると明るい自然林の広い尾根となる。

風もなく暖かく感じるため、まるで早春の日溜まり雪山ハイキングの気分だ。ラッセルも膝下程度でまずまずのスタート。左手には小白森が存在感のある山容を見せている。地図では縦走路の通過点のようにしか見えなかったのだが、なかなか立派で登りがいがありそうだ。

900mあたりから傾斜がきつくなるととたんに雪が重く感じられ、すぐに汗ばんでしまう。疲れないラッセルを心がけ、小まめに交代しながら進む。次第に大きなブナが卓越する森となり、期待通りの雪山となる。それにしてもすばらしい天候だ。これからは会津でもこのような好天の日が増えるはず。ずっと滞留していた行きたい山リストをようやく稼働させることができそうだ。

ふたたび傾斜が緩やかとなり、ブナ林の素晴らしさが増す。青空と大きなブナとまっさらな雪に恵まれながら、気持ちのいいラッセルが続く。このあたりは、まだ余裕があった。1170m付近で目印としていた千手観音のように枝を広げたブナの大木が見え、振返ると6人のスキーパーティが続いて来た。

ちょうど時間もたったので、ここで休憩して先行してもらうことにした。軽く会話を交わすと、二岐山には頻繁にやってきているという栃木の人たちで、今年は雪が多くて藪が完全に隠れ好条件とのこと。みなさんにラッセルの御礼を言われ、なんだか晴れがましい気分になる。こんなことは初めてだ。ただし、内心の期待を見透かしてのことか、少し進んですぐに滑り降りるとも言われてしまう。

少しだけ彼らのトレースをたどり、再び二人のラッセルとなる。相変わらず緩傾斜のきれいなブナ林が続き、なぜこの斜面を滑らないのか不思議に思ってしまう。足取りは重いけれど楽しく気持ちのいいラッセル。けれど時間はどんどん過ぎていく。当初は下山のタイムリミットを2時と考えていたのだが、1300mを過ぎてからはどんどん傾斜がきつくなり、腰上の雪を崩しながら登る状態が続くようになる。こうなると二人ともパワー不足。

前回の乳頭山では初ラッセルのために疲労感が先に立ち、山頂に至らなかったことが後でとても悔やまれた。そのため、今回はどうしても最後までやり通したいという強い気持ちだった。遅々としてはいたが、行動を止めなければ確実に高度は上がっていく。こうなったら温泉なしのヘッデン下山になってもと、なんだか悲壮感が漂ってきた。もう2時になろうとしている。

ようやく樹林帯を抜けると、頭上に真っ白な尾根が太陽の逆光を浴びて見える。もうひと頑張りと声をかけつつ、自分を励ます。すると山頂が見えてきた。さすがに雪もしまり、ようやくラッセルから解放される。山頂の大展望を予感させるようにあたりが開け、すでに感激モードにスイッチが入る。もっとこんな状態が続けばいいのにと思うほど気持ちのいい稜線からは、あっというまに山頂へ。

一時はどうなるかと思ったが、なんとか3時前に山頂へたどり着くことができた。二岐山はほぼ同心円状の独立峰なので、全方位のすばらしい展望だ。まずは南の那須連峰に連なる稜線に目が向う。少し西に寄ったところの鋭峰は旭岳だろうか。その奥には那須岳の噴煙も認められる。いつか二岐温泉から縦走してみたいコースだ。

南西の眼下には一昨年の秋に遡行した男女川の谷筋が切れ込み、二つコブの鎌房山がとがっている。源頭部から乗り越した尾根も間近だ。あのとき越えた尾根を雪の二岐山から見下ろしているなんて感激だ。御鍋神社からの登山道が白い筋となり、ブナ平と呼ばれる中腹部にはブナの疎林がゆったりと広がっている。

反対側に目をやると猪苗代湖が広がり、磐梯山とその奥にひときわ真っ白な飯豊連峰が浮かび上がっている。右に目を移すと安達太良連峰、眼下には大戸岳をはじめ多くの会津の山並み。一つ一つ同定を楽しみたかったが、あまりゆっくりしていられない。雪で覆われた標識の隙間にカメラをセルフにセットして記念写真をとり、下山することに。

もう一度那須連峰に連なる山並みの展望を楽しみながら雪尾根を下る。すぐに樹林帯に入り、登りでさんざん苦労した斜面を滑るように下る。斜面が広がったところではトレースを離れ、まっさらな斜面を滑り降りた方が楽で気持ちがいい。スキーはできないけれど、シューでもこれだけ楽しめる。

あっというまにブナの大木地点へ。このあたりからはスキーのトレースが増え、雪面は賑やかになる。やはり大変でも、自分たちだけのトレースの山がいいねと言いながら、さらにひと下りして駐車場に戻った。

登りに5時間40分かかったところを1時間15分で下ったことになる。あとで距離数を見るとわずか4キロ。気が抜けてしまうような、それでいて癖になりそうな爽快感だ。嬉しいことに、下山時間はほぼ予定通り。

二岐温泉はさらに先なので、帰り道の途中にあった岩瀬湯本温泉に立ち寄ることにした。なかなか風情のあるステキな宿の雰囲気だったのだが、玄関には本日の入浴終了の札がかかっていた。残念だったけれど、充実した雪山歩きができた満足感に満たされながら帰途についた。

駐車場9:00ー山頂14:40/14:50-駐車場16:05