ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.06.12
高森川仏沢
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2010年6月12日

 

土湯トンネル手前、箕輪スキー場の駐車場に車を止めて沢支度をしていると、森林組合の管理人が近づいてきた。この時期はタケノコ狩りの人が多く、入山料を徴収しているらしい。もちろん私達は山登りということで免除。ここから箕輪山に登る人は少ないといわれる。道路を越え、ホテルプルミエール箕輪の敷地を横切って沢へ下る。ホテルの遊歩道らしく、標識が倒れていた。沢へ降り立ってすこし下ると二俣となり、右俣へ入る。

しばらくゴーロを進むと左手から道がおりていて奥に人影が見える。駐車場で見かけたタケノコ狩りのグループだった。わざわざ東京から来てタケノコを取らずに山に登るなんてもったいないといわれる。まあ、それぞれの嗜好があるわけで、お互い様か。

新緑の合間から陽が射し、とても気持ちがいい。前方に10m滝があらわれ、沢歩きにメリハリがつく。とても見栄えがして迫力があるが、階段状なので楽しく登れる。滝上はふたたびゴーロとなり、左手に取水パイプが見えてきた。ホテルから道が続いているようで、取水堰となる。このあたりはシートが散乱していたりして人臭く、そそくさと通過する。

沢は落ち着いた渓相を取り戻し、周りはブナの新緑が美しい。5m滑滝がきれいだ。しだいにナメや小滝が交互にあらわれる。大きな釜を持った小滝が多く、小さく巻きながらすすむ。遡行を始めて2時間ほどで傾斜のある8m滝へ。直登するには完全にシャワーになりそうだが、よく見ると右手の水流沿いが登れる。

見かけよりも簡単に登ると滝上もナメが続いており、いよいよ長く美しい大ナメ帯に入ったようだった。気持ちよく進み、目の前の光景に思わず立ち止まって息をのむ。正面奥にはまるで前方の稜線から滝を落としているかのような急傾斜のナメ、右手からも大ナメ滝の枝沢が合流して、さながらミニ十字峡のよう。一瞬、まさか正面を登るのかと不安がよぎるが、本流は左手にカーブしており、ホッ。

ナメはそこそこの傾斜だが、フリクションが効く。そうとわかれば快適に夢中で登る。傾斜のあるナメを登るときは気持ちを集中させて一気に登る。緊張感を持ちながら楽しめる按配が最高だ。ナメは緩やかなS字カーブを描くように続いている。ほれぼれする美しさだ。写真で見た笹穴沢の大ナメ帯を小ぶりにしたみたいだと、ちょっと褒めすぎかな。この美しいナメはどれほど続いただろう。

ようやくすこし小ぶりになるものの、一向に途切れる気配がない。予想以上の素晴らしさに感激し通し。しばらくするとナメは3mチョックストーンに阻まれる。Sugiさんが左壁の手がかりのなり大岩をよじ登って通過し、お助け紐をだしてもらう。その上の10mトイ状滝も何とかクリア。変化があり、難しすぎず簡単すぎずで、楽しい。いくつか登れない小滝を小さく巻いていくと渓相ががらりと変わり、藪っぽい平沢となっていく。

石楠花や白いアジサイのような花(名前がわからない)が藪に点在して目を楽しませてくれる。そのうえ目の前にはコシアブラが摘んでくれといわんばかりに枝を突き出している。楽しくて藪の煩わしさも忘れるほどだ。時に匍匐前進しながら進み、前方に箕輪山が見えてくると石楠花や潅木の藪が笹薮となり、背丈を覆うようになる。

笹をかき分けながらしばらく進むと突然前が開け、広い雪渓台地となる。思わず、やったーと叫んでしまう。大ナメ帯があらわれたときのように、あまりにも突然の変わりように驚くやら大喜びするやら・・・

沢はここから大きく南に流れを変え、快適な雪渓歩きとなる。左手には箕輪山に続く尾根の鞍部が近く、小さく雪渓が残る枝沢に進んでしまいそうだ。こちらをたどった記録では、すぐに沢型がなくなり激藪との格闘を強いられたとある。一見遠回りのようだが、快適な雪上漫歩を楽しみながら鉄山避難小屋近くの尾根道へ抜ける。

今年は残雪が多いせいか、雪渓は源頭部まで途切れることなく続いた。雪が消えたところからは池塘があらわれ、最後はハイマツや低潅木の緩い藪を歩いてあっさりと登山道に飛び出した。避難小屋は目と鼻の先。以前から、仏沢に行くなら雪渓の残る6月と決めていた目ろみは大成功。

避難小屋はとてもきれいだったが、中には入らず展望を楽しみながら沢装備をとく。2年前に石筵川を遡行して安達太良山へ登ったときは、あまりの人の多さに驚いてすぐに退散したものだが、安達太良山以外は休日でも静かなようで、登山者は少なかった。穏やかな山容の箕輪山へ向かう途中から、雪渓で覆われた仏沢の沢筋が俯瞰され興味深い。

上から見下ろすと、雪渓があらわれた最後の二俣から登山道鞍部の笹平はほんのわずかの距離に見える。笹平に登山道分岐を示す標識があり、僧悟台への登山道は自然に戻すために整備をやめ廃道化していると書かれていた。たしかに、湯川を遡行して僧悟台へ出たとき、塩沢温泉への下りは道が明瞭だったが、箕輪山方面は藪のようだったことを思い出した。

箕輪山山頂へ。北側には吾妻小富士を正面に吾妻連峰の山並が近い。あまり縁のない山域だが、山頂にいた話好きそうな地元の年配者が一つずつ山を教えてくれる。久々の快晴となり、昨日と日程を入れ替えて正解だったと大満足して山頂をあとにする。

下り始めてすぐに麓のスキー場が見えるほど見晴らしがいい。展望を楽しみ、登山道脇の石楠花やツツジの花を楽しみながら快適に下る。そして最後はやっぱりブナの森。とても美しい新緑のブナ林に何度も足を止め、森の奥の大木に思いをはせる。途中でスキー場の管理道路が横切り、スキー場のゲレンデがあらわれる。かつては一帯がすべて素晴らしいブナ林だったはずだ・・・

登山道をそのまま下ると駐車場から遠くなってしまうので、適当なところでゲレンデにトラバースしてスキー場を下り、駐車場にもどった。二日目の温泉は近くの横向温泉と決めていた。2年前に素泊をして質素ながらとてもいい湯だったからだ。

あのときはレトロでとてもユニークなおばあさんに迎えられたことが印象に残っているが、今回は残念ながら会えなかった。男女の区別があるようでない露天風呂に最初は躊躇しつつも、まあ、いいっかと気持ちを切り替え他の入浴客と談笑すれば、ためらう方が不自然な気持ちになるから不思議だ。

仏沢の長く美しいナメは予想をはるかに超える素晴らしさだった。前半が平凡で詰めが藪というハンディを差し引いても、もっと遡行されてもいいと思うのだが、どうなのだろうか。いずれにしても、入梅直前ながら好天に恵まれ、ナメ三昧、温泉三昧の充実した沢旅となった。

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駐車場7:20-入渓7:30-奥の二俣11:50-鉄山避難小屋12:45/13:05-箕輪山13:45/14:00-駐車場15:45