ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.05.09
四万十川滑床渓谷
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2010年5月9-10日

 

飯豊の縦走で今シーズンの雪山に一区切りをつけ、いよいよ沢シーズンの到来となった。そしていきなり四国の沢というのも唐突だが、じつは動機は単純。エアラインの有効期限が迫ったマイルを使ってどこか遠くへ行こうと、行きたい山・沢リストの引き出しをひっくりかえして決めたのだ。以前から四万十川源流の沢旅・・・という響きに憧れていた。沢始めだし、前回は飯豊縦走で頑張ったしと、慰労を兼ねて新緑のナメをヒタヒタ歩いてのんびり焚き火を楽しむことにした。

 

早朝便で松山空港へ飛び、レンタカーで滑床渓谷をめざす。四国の山は初めてで、運転を人任せにしている身にとって2時間強の道中も見飽きることがない。高速道路を下り、歯長峠越えあたりからお寺の標識が山道を指し示すようになる。

そうか、ここは四国。お遍路さんの道だった。そう気がつくと辺鄙な山里に民宿があることも頷ける。ようこそ「お四国さん」という標識がいたく気に入った。42番~46番札所が集中しているようだ。

滑床渓谷の入り口となる万年橋には、山小屋風のホテルやキャンプ場などいろいろな娯楽施設があり、観光地となっている。けれど晴れた日曜日だというのに人はまばらで、とても静かなたたずまい。すでに昼近いが、さっそく標識に従って散策路を進み、出合滑へ。ナメがとてもきれいな所で、散策路から沢へ下り、沢支度をする。新緑と白い岩盤を流れる水がマッチしてとても美しい。なにしろ日本百名谷に選ばれているくらいだものと、期待がふくらむ。

しばらくするとナメは途切れ、大岩のゴーロとなったので再び散策路に上がる。いいとこ取りの沢歩きができるので、今回は目いっぱい楽をするつもりだ。すぐに左手から優美なナメ滝が見えてきた。落差80mという雪輪の滝は日本の滝百選にエントリーされている名瀑らしい。百名谷に滝百選と、滑床渓谷はすごい沢なのだ。

下からは上段の滝が見えないので、ザックを置いて偵察に登ってみる。ナメ滝を直登と行きたい所だが、滑りそうなので水際の樹林帯から登ると、一段目の上はほとんど平地の広場のようになっていて水流は右岸側に偏っていた。さらに少し登っていくと全容が見えてきて、見上げる滝はとても美しく見飽きることがないほどだ。

雪輪の滝出合の奥は沢幅が狭まり、逆V字状のゴルジュとなっている。散策路に上がり、ふたたびナメが出てきたところで沢に戻ると、あとはずっと平滑が続く気持ちのよい沢歩きとなった。とくに千畳敷から奥千畳と呼ばれる一帯のナメは素晴らしく、この沢のハイライトではないかと思う。

少し曇りがちだった空も晴れ渡り、まばゆい新緑の中でナメを楚々と流れる水が陽に照らされてキラキラ光っている。ナメがもっとも美しく見えるシチュエーションだ。奥秩父の沢の雰囲気に似ていると思った。東沢釜の沢の千畳のナメがずっとずっと続くようなイメージ。「天国のナメ」というキャッチフレースが定着した感のある二口の大行沢も真っ青だね、と言い合う。

所々左右から出合う枝沢もすべてナメ沢だ。左岸からナメを落としている三ノ俣沢は両門状となって美しい。幸福感に満たされた時間が続き、奥千畳の二俣へ。両岸をつなぐようにロープが張ってある。一般の人がロープを伝って沢を渡れるようにしてあるらしい。さあ、ここで進路を相談。

当初、初日に三本杭沢を登って登山道で下山、二日目に二ノ俣沢~一ノ俣沢を周遊するという欲張った計画を立てたのだが、二日目に雨予報。そこで天気のいい初日にハイライトの二ノ俣沢を遡行し、あとは状況に任せることにした。一ノ俣沢が本流のようだが、参考にしたトマの記録によると下降した二ノ俣沢の方がより美しいとのこと。日が長いので6時過ぎまで行動は可能だが、ザックをデポして周遊することは無理そう。そこでザックを背負ったまま二ノ俣沢へ入り、適当なところでテントを張ることにした。

二ノ俣に進んでからも美しいナメの渓相は続き、顔はほころびっぱなし。全体に沢は荒れた様子もなく快適だ。これほど長くきれいなナメが続く沢は本州では珍しいのではないか。以前遡行した叶道沢もかつては三大ナメ沢といわれていたが、倒木が多く美しいナメ沢を台無しにしていた。

最初の二俣を右へ進む。左沢沿いには登山道があって熊ノコルで尾根道と合流する。しばらく進むと、ようやく小さいながら滝が点在するようになり、ナメも途切れ始める。次の二俣は左へ進むとふたたび二俣となり、あたりが開けた様相となる。時間的にはまだ進めたが、これ以上上には水場のあるテンバ適地はなさそうだと判断して行動を終えることにした。

沢から一段上がった作業道のような平坦地を整地して、快適なテンバができた。乾いた焚き木も豊富だ。珍しくあっという間に火を起こすことができ、まずはビールで乾杯。いつまでたっても暗くならず、焚き木集めを追加する。こんなによく火が熾せるのだったらガスを持ってこなくてもよかったかな。飛行機ではガスを運べないので、高い送料を払ってあらかじめレンタカー店に送っておいたのだ。その点、旭川では昨年から空港の売店でガスを購入できるようになった。

翌日は予報どおり朝から小雨模様となるが、遡行に支障をきたすほどではない。雨にもかかわらず暖かいので苦にならない。昨日は予想以上に素敵な遡行ができたので、よしとしなければ。すでにナメは終わり、ゴーロとなって高度を上げていくが、雨でしっとりと濡れた苔の緑がとても鮮やかでいい感じ。5m、2段8m滝を越え、最後の二俣を傾斜のゆるい右へ進むと、しだいにあたりが開けた樹林帯となる。とてもすっきりとした様相で、ブナの大木も点在している。

藪こぎなど一切なく登山道に飛び出した。こんなに美しく遡行を終えたのは初めてではないだろうか。登山道は八面山を巻くようにつけられており、熊ノコル方面へ向かう。とてもよく整備された道で樹林帯も新緑が美しく、ガスがでていたために幻想的な雰囲気を醸し出していた。何よりも、あまり期待していなかったブナが大きく綺麗なことがうれしかった。やっぱりブナの沢旅になったねと、大喜び。

こんな天気で歩く人などいないと思ったが、途中広島からやって来たという7、8人のグループとすれ違う。万年橋を登山口とする藤生尾根の石楠花を見に来たという。三本杭への分岐は無木立の平坦地となっており、ガスで視界はほとんどなくなっていた。

ここから沢へ下降するのだが、ガスが出ているので見つけられるか心配だった。モウセン苔とオレンジ色の低潅木の組み合わせが綺麗な登山道を少し進むと左手が開け、緩やかな谷をうかがわせた。すると赤テープも見つかり、ふかふかの土の斜面をキックステップで適当に下っていくと樹林帯となる。

あたり一帯はブナやトチ、ツガなどの大木が点在する幻想的な森の風情。すると大きな白いつぼみの花があちこちに見られるように。あまりにも可愛らしいので、しばらく花を求めて森をさまよう。そう、彷徨いたくなる雰囲気の森なのだ。沢はゆったりとした森の中を緩やかに流れている。何かあるわけではないが、とても雰囲気がいいのだ。900mあたりからようやくナメが続くようになったと思ったら、突然傾斜が落ちて先が見えなくなる。

沢を進むことはできないので樹林に入って適当に下っていくとテープが出てきた。踏みあとをたどるとトラロープの急坂となり、崖を下っていく。地図で等高線が密になっているところは滝のようだ。トラロープは100mほど続き、最後は縄ばしごがかかったスラブを下りて大高巻きは終わった。25m大くらの滝下に出たようだ。滝を見ようと沢に下りてみたが、ガスで全容はうかがえず、かえって威圧的で神秘的に感じられた。ふたたび樹林に戻ると少し先に大くらの滝の標識があり、道が続いていた。どうもこの滝を見物するための道があるらしい。

せっかく道があるならこのまま下ってしまおうとしたが、途中で下山とは反対の方向に向かっていたので小沢を下る。けれど三本杭沢を離れたことが気がかりとなり、やはり戻ることにした。気を取り直して小尾根を越え、沢にもどるとすぐに雪輪の滝上となった。どこから見ても美しい滝だ。戻ってよかったと、心から思った。

昨日偵察した場所に戻ってしばらく写真を撮ったり景色を眺めたりして最後の余韻を楽しみ、水際の樹林沿いを下って本流へ。散策路へ上がったところで沢靴を履き替え、帰りは左岸沿いの少し高いところについている散策路をたどって駐車場へもどった。

9日 万年橋駐車場11:45-雪輪の滝12:50/13:10-奥千畳15:00-二ノ俣沢-900m二俣幕営地16:30

10日 幕営地7:00-八面山登山道8:20-三本杭分岐9:20-大くらの滝下11:05-雪輪の滝上12:10-万年橋駐車場13:10