ブナの沢旅ブナの沢旅
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2009.08.29
クワウンナイ川
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2009年8月29-31日

 

少し遅い夏休み山行で北海道のクワウンナイ川へ行ってきた。山で北海道へ行くのは今回が初めて。あっけなく決まり、実現したのだった。ブナの沢旅を始めてから初めての2泊3日の沢旅を計画しようと思ったものの、行きたい所は虫が多くて時期が悪い、2泊では時間が足りない・・そこで急に思いついたのが、なら北海道へ飛ぼう、クワウンナイ川へ行こう、だった。

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無料航空券を使うことが前提だったので、さっそくネットで空き状況を調べたところ、8月下旬ならちょうどぴったりの便が往復取れそうだった。夏休みの北海道で7月に入ってからの予約で無料チケットがとれるなんて、行かない手はない!sugiさんはこの唐突な計画に最初は驚いたようだったが、いつかは行きたい沢リストに入っていたので納得してくれた。

その直後にトムラウシでの大遭難事故が発生し、気軽な気持ちで行ってはいけないことを思い知らされることに。天候に不安がある場合は中止か縦走に変更すること、防寒装備をしっかりすることなどを改めて確認。幸い3日間とも、薄日の差すおだやかな天候だった。

旭川空港から予約しておいたタクシーで天人峡手前の羽衣橋トンネル出口の駐車場へ向かう。ガスは機内に持ち込めないため、タクシー会社が手配してくれるサービスを利用。駐車場向かいの小道がクワウンナイ川へ下る林道なのだが、何の標識もないのでわかりにくい。

少し入ると入渓者への注意をしたためた看板が倒れていた。すぐにボンクワウンナイ川出合へ降り立つ。増水も心配するほどではなさそうだ。ここで装備をつけ、まずは軽く食事をする。

ボンクワウンナイ川を渡渉して本流に入る。いよいよ私たちにとっては今までで一番長い沢旅(といっても、わずか3日間)の始まりだ。川は開けた森を静かにゆったりと流れている。しばらく川原を歩いていくと、しだいに川幅が狭まって早瀬となったり、岸に岩が張り出したりして渡渉を繰り返す。水流が強いため、時に股下の渡渉となりとても緊張する。

ゴルジュは明瞭な巻き道があるので問題なし。クワウンナイ川は人気の沢なので、難しいところには必ず巻き道があって救われる。両岸に柱状節理のような絶壁があらわれたりして、変化がでてきた。歩きにくいところを避けて樹林に入ると小川が流れていた。なんだか別の沢に入った錯覚にとらわれるが、自然と本流に導かれていく。

700mあたりからは川が大きく二筋に分かれ、さらに枝沢が何本も平行するようになる。本流は水量が多いので、できるだけ水流の細い枝沢をたどりながら進む。ところどころにテンバがあらわれるが、1日目の目標は876m二俣。

カウン沢出合まで進みたいところだが、出発が遅かったので無理だろう。時間がかかるので、できるだけ樹林の巻き道をたどるように進む。結構しっかりした踏み跡がある。きっとみんなゴーロ歩きに飽きて楽をしたくなるのだろう。それにしても長い。

時間も押してきた。5時半ころようやく876mの二俣へ。テンバを探すがあまり適当なところがなく、ようやく少し下ったところの川原に一張り分の砂地を見つけて即決。狭いながら整地をして快適なテンバとなった。流木がなくて焚き火はおあずけ。でも、1日目を無事終えることができてホッとした。

 

 

翌朝は薄日の差す中を出発。しばらくは昨日と同じ渓相が続き、淡々と遡行する。前方左手に斜滝のような流れが見えてきたところが、カウン沢出合だった。カウン沢はなかなか見栄えのする滝を落としている。左岸の樹林に入ると情報で得ていた広いテンバがあった。

水場からは少し離れているがゆったりとした4LDKの物件というところだろうか。朝早く出発すれば、十分到達できる場所だ。できるだけ樹林の巻き道をたどり、二俣へ。

左の沢へ進み、流れが左折した先にようやく滝が見えてきた。魚止ノ滝だ。幅広のスダレ滝でとても美しい。対岸に渡って滝に近づいてみる。いよいよ待ちに待った滝ノ瀬十三丁の始まりだ。戻って左岸の巻き道をたどる。滝上に出るとさらにダイナミックながら優美なナメ滝が次々とあらわれ、歓声をあげずにはいられない。まさに興奮状態がスイッチオン。

こんなに劇的な変化がどうして起こりえるのだろう。改めて自然の造形の不可思議さに驚嘆。そして緩やかな傾斜のナメを進んだ先には、川幅いっぱいに広がる平ナメがはるか彼方までつづいていた。

ザックをおろし、思わず走り出してしまう。寝そべったり、あぐらをかいたりと大はしゃぎ。クワウンナイの、このナメを知らずにナメ沢は語れない、などという暴言まで出る始末。幸福感と充足感にひたりきったナメ歩きが1時間ほどつづく。

しだいにナメの上に段通絨毯のようなふかふかのコケがついてくるようになり、ナメも終盤を迎える。そこでお茶を沸かしてのんびり休憩。両岸には期待していなかったたくさんの花が咲いていて彩りを添えている。

1170mの二俣は両門の滝のよう。左岸の枝沢は急傾斜の連瀑帯となっていて、滝が稜線までつづいているように見える。左手にカーブしている5m滝を左から越えると3~4mの小滝が連続し、ふたたびダイナミックで美しい10mナメ滝があらわれる。そしてついに長大なナメ帯は終わり、12時を過ぎたシンデレラのようにもとの平凡な渓相となる。

とはいえ、随所に滝をかけながら高度を上げていく。8mのハング滝はすごい迫力。右岸を高巻くが、最後は4mほどの岸壁となる。古いロープが3本垂れ下がっているが、今にも切れそうだ。ここはsugiさんが残置をたよりに空身で登り、荷揚げついでに私も揚げてもらった。

 

 

 

1355mの二俣を左に進むと、すぐに2段15m滝があらわれる。左岸の明瞭な巻き道をあがると下段滝の落ち口上がなんとテンバになっていた。絶景だが水を取りに下りるのが大変そう。

滝上は穏やかな小川の風情となり、はるか前方には稜線が見渡せるようになる。すると予想外の大きな階段状の滝があらわれた。きれいで楽しい滝だった。どこでも登れそうだが、水がとても冷たい。滝上の沢幅はさらに狭まり、すでに源頭部の様相だ。

お花畑が最盛期の名残をとどめており、チングルマやリュウキンカ、イワブクロ、ハクサンイチゲにオニシモツケなどが見られた。振り返ればあたりの山々を眼下に見下ろすようになり、草原が色づき始めている。沢が溝のように山間を蛇行して行き、これで滝も終わりかと思ったら突然15m多段滝があらわれ意表をつかれる。

釜を回りこむように岩を乗り越えていくと、展望のいい平らな草地に目が釘付けとなった。とっさに、ここに泊りたい!と思う。先を行くsugiさんを呼びとめ、ここをテンバにすることを提案というか、宣言する。

2日目のテンバは現地の様子を見てヒサゴ沼避難小屋か源頭部にする予定だった。まだ2時半だけれど、水も豊富にあるし、急ぐ必要もないので今宵の宿とすることに。

こんな絶景のテンバは初めてだ。早々と食事を済ませ、シュラフにもぐり込む。外に出たsugiさんが興奮して叫んでいる。つられて出てみると、赤く燃えた夕日が雲を七色に彩り、山々を照らし出しているではないか。言葉を失うほどの美しさだった。太陽が沈むまでずっとこの光景を眺めていた。

 

 

 

3日目の朝も薄曇。展望もあることだし贅沢は言うまい。いつものようにゆったりと食事をして出発。このあたりからは沢に沿って登山道のような踏跡がお花畑に囲まれて続いている。沢が涸れそうになったところで縦走用の水を汲む。めざすべき稜線の前にはカール状の草原とモーレーンが広がっている。とても開放的で清々しい。たおやかな山々に囲まれた広い舞台に私たちだけがいる・・・

お花は最盛期を終えたものの、草紅葉が始まっていて雰囲気がいい。あまりにもステキなのでまたザックを放り出して遊んでしまった。さらに進むと雪渓も点在するようになり、岩稜帯を越えて登山道にでた。

ところどころにケルンが積んである。稜線の向こう側には沼が点在している。私はほとんど稜線歩きというものを経験していないので、とても感激してしまった。

ここから化雲岳を目ざす。思ったより遠い道のりだし、ザックの重さがこたえるが、素晴らしい展望や名残の花々に慰められる。トムラウシ山は眺めるだけ。チングルマは花柱だけとなっているが、エゾツガザクラやイワウメはいまだ満開だ。花の最盛期はさぞかし見事なのだろう。ウラシマツツジの葉が真っ赤に色づき、緑にアクセントを加えている。

大きな岩がヘソの尾のように飛び出た化雲岳の山頂で休んでいると、二人の若者がやってきた。初めて出合った人たちだ。黒岳からの大縦走で、停滞を含めて五日目、さらに十勝岳に向かうという。

彼らが地元の人から聞いた話では、今年は登山者が極端に少なく、逆にクマの出没が異常に多いらしい。そういえばタクシーの運転手さんも今年は雨が多くてクワウンナイにはずっと入れなかっただろうと話していた。あの大惨事も影響しているはずだ。とても感じのいい学生さん達で、話ができてよかった。

最後は長い長い尾根を下る。小化雲岳を過ぎるところまでは展望の稜線漫歩が楽しめたのだが、ハイマツと笹をくぐるようになるころから、足場がぬかってやっかいとなる。

いい加減悪態をつきたくなるころ木道となり、快適に進んでいくと地図で第一公園とかいてある湿原にでた。旭日岳を望む展望のいい、とても広い湿原で、数多くの花が最後の姿をとどめていた。
なかなか高度を下げない道を淡々と歩いていくと、深い谷の忠別川対岸に羽衣の滝と呼ばれる数百メートル規模の多段滝が白い筋を落としている姿が樹林越しに見られるように。絶景ポイントの滝見台で滝を眺めながら最後の休憩を取り、天人峡温泉のトムラウシ登山口に降り立った。それにしても長い下山路だった。お疲れ様の握手をして温泉につかり、タクシーで空港に向かい帰路についた。

この沢旅は、生涯忘れられない思い出となるだろう。

ありがとう、クワウンナイ!

 

 

 

 

29日 林道入口10:00-ボンクワウンナイ川出合10:20/11:00-876m二俣17:40

30日 幕営地7:10:-カウン沢出合8:40-魚止ノ滝9:50-1550m14:30

31日 幕営地7:00-稜線9:30-化雲岳11:20/11:50-天人峡温泉17:00