ブナの沢旅ブナの沢旅
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2009.06.27
大倉川笹木沢
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2009年6月27-28日

 

日ごろから行きたい沢の情報を集め、気持ち(あくまで気持ちだけ)はいつでも準備OKなのだが、今の自分の力で行ける沢となると当然ながら限られてしまう。そんな中、憧れ度はかなり上位だけれど、まだちょっと不安だなあ~と思っていた東北の秀渓、船形連峰の大倉川笹木沢に思い切って行ってきた。

朝一番の新幹線で仙台へ。行楽シーズンなのか、大人の休日倶楽部切符の効果なのか自由席は珍しく満席だ。仙山線でタクシーを予約した愛子駅へ向かう。ここは秋保温泉の玄関口らしく多くの人が降車した。

タクシーを見つけて向かおうとしたところ、ハンサムなお兄さんに呼び止められ一瞬誰だろうと思ったら、なんと沢の会「さわね」の大将さんだった。こんなローカルな駅で会った偶然に驚きながら、他のメンバーの方々にもご挨拶。2パーティにわかれ、桶ノ沢避難小屋で集中とのこと。

すでに笹木沢を遡行している大将さんに下山路の情報をもらい、十里平へ。途中通過した定義は由来はともかく、金ぴかのお堂や五重塔もあり観光地になっているようだった。のどかな牧場を通り過ぎ、十里平の林道終点でタクシーを降りる。

大倉沢へ向かう明瞭な踏跡をたどり、朽ち果てた木橋の先の堰堤へ。途中2人の釣人が追い越していった。堰堤の梯子を下って大倉川に降りたのだが、Yさんによると、彼らはまるで普通の階段を下りるように前向きで下っていったとのこと。地元の釣師の軽業の一端を知った思いだ。

対岸にかつてのトロッコ軌道跡の路が続いていたのでしばらくたどっていくと、矢尽沢を横切るところで半分倒壊した木橋があらわれた。ここから沢に下りて少し下り、大倉川へ。

しばらくは川原沿いに進むが、真夏のような日差しで水もぬるんでいる。すぐに堰堤となるが、両側とも越えられそうにない。左岸から越えようと試みたが無理なので諦め、少し戻ったら右岸に立派な巻き道がついていた。

30分ほどのロスタイム。気づかなかった自分たちに少しめげる。しばらく行くと右岸から戸立沢が出合う。貧相な出合だが、地元山岳会の記録によると、戸立沢は滝は多くないけれどとても美しい沢らしい。

ようやく滝場があらわれた。大きな釜を持ち、5mほどの小滝ながら水量が多く迫力がある。左岸手前のルンゼから大高巻きとなるが、上部の急斜面にはトラロープがさがっていた。高巻いた上は気持ちのいいブナ林の平地で、降り口を探しながら適当に進んでいくと明瞭な下降点の踏跡があった。

5m滝上の12m滝も一緒に巻いてしまったようで、川原に降り立つと単調とはいえ再び穏やかな沢歩きとなる。昼食のソーメンタイムをとり、1時間ほど進んでようやく笹木沢出合へ。

ここからは渓相が一変し、沢登りらしくなる。両岸が迫る中、全体が黄色味を帯びた黒っぽい岩質のゴルジュとなる。大倉川下流は何もなく退屈しかけた頃だったので、一気に楽しくなる。すぐに大きな釜の5m滝があらわれ、釜をへつって左岸から快適に登る。その後も5~7mほどの登れる滝がつぎつぎとあらわれ、その素晴らしさ、楽しさにうなりっぱなし。

滝が一段落するとナメ床となり、両岸は素晴らしいブナ林が広がる。中でもひときわ目立つマザーツリーのようなブナが目に飛び込んできた。思わず駆けより、恒例のハグ。気持ちのいいナメ床がしばらく続き、5mの斜滝は水流を快適に登る。

時間がたつのを忘れてしまいそうに楽しく進んでいくと前方に迫力のある8m滝があらわれる。もうこれでいくつ滝を越えたかなと思うほど、つぎつぎと飽きることがない。水量が多くぬめっていそうに見えたので念のためロープを出し、潅木をたよりに立ちこんで登った。

4時を回ったのでそろそろテンバを探しながら行くと、720m付近の右岸に快適な平地が見つかった。沢から近く、数十センチしか段差がないので雨の心配があるときには不向きだけれど、今回は好天で大丈夫と確信。

枯れ枝もすぐに集まり、まずは焚き火を起こしてからビールで乾杯。沢泊まりの至福のひとときだ。前菜だけでお腹も満たされたが、sugiさんが用意してきた豚の味噌漬けで止めをさす。

暗闇の焚き火を見とどけてテントに入るが、シュラフが不要なほど暑いので入り口は蚊帳モードに。横になるとまるで枕元に沢が流れているような錯覚にとらわれるほど近くに沢音を聞きながら、あっという間に就寝。

 

 

 

翌朝は4時に起床。枯れ木が残っていたので焚き火を起こす。朝は少し肌寒いのでこの暖かさが心地いい。6時に出発。すぐにゴルジュとなり、小滝を越えていくと8m滝に行く手をふさがれる。うーん、登れそうにない。近づいてみると水流に手がかりがありそうだが完全にシャワーとなる。朝一番でしり込みしてしまう。

右岸を巻くことに決めYさんは目の前の急斜面を潅木をたよりに登っていったが、いやらしそうなので少し戻って探したところ、階段状のところがあった。上には懸垂用のシュリンゲがいくつかかかっているというので合流しようと登っていくと、途中で右下に岩を巻き込むように付いているバンドが見えた。ここから落ち口に行けそうな気がしたので再び降りてバンドを伝うと簡単に滝上へ。

Yさんは10mほどを懸垂下降でようやく沢床に戻った。最初から小さく簡単に巻けるルートを見つけられなかったことが悔やまれた。ヤレヤレとホッとして先へ進むと黒っぽい岩の2段10mがあらわれる。今度は気持ちよく直登。

ナメや小滝、瀞場がつづいた後、渓は深いV字谷となり崩壊斜面を通過する。ほんの最近まで沢を覆っていたと思われる雪渓を越え、沢が右にカーブすると手前に深い釜を持った8m滝があらわれる。

ルートは右岸なのだが、上部が雪どけで流されたような枝の塊で覆われていていやらしい。なんとか巻けそうなので、少し戻って取り付き口を探す。潅木をたよりに急斜面を登って落ち口手前までトラバースして沢に戻ると、目の前には鎧滝がどーんと聳え立っていた。

素晴らしい景観だ。明るく開けているので威圧感はない。登れそうだ。心に引っかかっていた一抹の不安は消え、闘志が湧いてきた。二段目まで登り、ここから心に鎧をまとい、ロープを引いていざ出陣。ホールドは豊富にあり、青空の下、快適なクライミングだ。

半分ほど登ったところで近くの潅木に気休めのランニングビレーをとる。精神安定剤としては一定の効果ありか?最上段まで登るとホールドが細かくなり少し緊張するが、登るしかない。小さな出っ張りに勇気を出して立ちこみ、最後のツルツルをエイッ!と声を出して気合で登りきった。すごい!やったーと、心の中でガッツポーズ。

しかも重いザックを背負いながら登ったなんて、我ながら偉い!と、もう自画自賛の嵐。落ち口から少し奥の潅木に支点をとり、Yさんを確保する。やはり最上部で手こずっており、よく登ったねーと感心してくれた。調子に乗って、これで私も初級者卒業試験にパスしたかな、なんて・・・充実感も相まって、上から見下ろす景色も素晴らしかった。

これで懸案のメインイベントは終わったという安堵感に包まれながら、ふたたび穏やかさを取り戻した流れを進むと2段8m滝があらわれるが、困難はない。ゴルジュのトイ状滝はきわどいヘツリを避けて簡単に小さく巻くとナメ床に。

大きなガマガエルのような岩が鎮座する2段4mナメ滝、5m、2段6m滝がつぎつぎとあらわれる。この間、イワナが何度も目の前を走りすぎて行く。さすがにこんなところまで釣師は登ってこないだろうから、イワナ天国なのかもしれない。

両岸のブナ林はますます美しさをまして遡行者を魅了する。源頭部が近くなっても水流が衰えることはなく、日本庭園風の風景がつづく。しだいに高度を上げながらゴーロからふたたびナメ床となり、細かく二俣を重ねながら最後は窪地のような斜面をひと登りすると、ほとんど藪コギもなく登山道に飛び出だした。仙台カゴの水場より少し西によった所だった。

 

 

 

お疲れ様の硬い握手をして素晴らしい沢を遡行できた喜びを分かち合う。私たちにとって、笹木沢はこれまで遡行した沢よりもワンランク上の沢だっただけにとても嬉しかったし、これから行ける沢の幅を少し広げることができそうな気がした。

予定では白髭山~寒風山を経て関山トンネル口に下山するつもりだったが、充実した遡行で満たされると共に暑さも加わって疲れがでてきたため、下山路の短い観音寺コースに変更することにした。

そうと決まれば時間はたっぷり。装備をといてゆっくり休み、ハイキングモードに切り替える。白髭山への登山道と交差する粟畑を過ぎると予想外の素晴らしいブナ林となり、その中を気持ちのいい登山道がゆったりと続いている。

このコースは1000m付近まで林道が延びているのであまり期待していなかったのだが、笹木沢の源頭部に劣らない見事な森が広がっていた。降り立った林道終点には数台の車が止まっていたが途中誰にも会わずヒッチハイクは期待できそうもない。

しばらく下って携帯が通じるところでタクシーを呼び、柳沢小屋まで来てもらうことにした。小屋は東根市が管理しているらしくキャンプファイヤーができる広場があってきれいに整備されていた。

タクシーで山形新幹線が止まるさくらんぼ東根駅へ。予定外の帰路だったのでまったく予備知識のない町だったが、すべてが新しく、全国の幹線道路沿いに見られるような大型店が軒を連ねていた。駅も立派で観光客で賑わっており、サクランボ観光の効果らしい。

タクシーの運転手さんによれば、隣駅の東根には温泉があってそれなりに賑わっていたけれど、新駅ができて街の中心が移ってしまい、今では寂れてしまったとのこと。

そんなわけで新幹線は恐ろしい込み具合なため、30分後に出るという臨時列車まで待つことにした。臨時便は空席があると朗報を伝えてくれた地元のおじさんと話をしたところ、「そうか、東京からわざわざ山さ登りにぎだだかー」といって、なんとサクランボを一パックいただく。無事に臨時列車で座ることができ、サクランボを食べながら楽しく充実した沢旅を締めくくった。

 

 

6月27日 十里平10:00-矢尽沢出合10:30 -戸立沢出合-笹木沢出合14:10-720mテンバ16:15

6月28日 テンバ6:00-鎧滝8:30-登山道12:30/13:00-林道終点14:05-柳沢小屋14:40