ブナの沢旅ブナの沢旅
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2009.04.10
沼の平~大三本沢右岸尾根~浅草岳
カテゴリー:雪山

2009年4月10-11日

 

去年5月の連休明けに浅草岳山麓の沼の平へ行き、残雪とブナの新緑の美しさにすっかり魅了された。今回は雪と霧氷のブナ林再訪がねらいだったが、2週前に行った未丈の下山時に膝をひねってしまい、先週の予定を一週間延期せざるを得なくなった。けれどこの間の暖かさで雪解けが加速されたようだった。

只見線は5時台の始発をのがすと1時半近くまで運行がない。そこで8時にオープンする越後湯沢の駅レンタを使いナビに只見駅を入力したところ、走行距離約280km、到着予定時間13時という。そんな馬鹿なーと軽く考え、ナビを無視して一路252号線へ。

沿道は雪の気配がまったくなく、5月ころの陽気だ。快調に飛ばし大白川を過ぎたところで冬季通行止め。思いっきり頭をガーンと殴られた感じだ。まいったなあと、さっそく鳩首会談。

ムジナ沢ルートへの変更や上越への転戦など一通り口に出してはみたものの、ブナの沢旅としては入叶津から入山してこその浅草岳なのだ。そこで新潟から会津若松方面へ向かってから只見入りという「大高巻き」を敢行することに決めた。只見線は冬季のライフラインであり、だからどんなに赤字路線でも廃止できないのだという話をしていたはずなのに・・・

気を取り直し、さあドライブを楽しもうねとまずは新潟へ。来るときにさんざ悪態をついたナビには、無実の罪をきせてごめんなさいと平謝り。川内山塊を望み、風光明媚な阿賀野川から只見川沿いをひた走り、2時過ぎに入叶津集落にたどり着く。電車に乗るより早くついてホッとする。林道に雪はないが一部雪崩雪が道をふさいでいるため、集落のはずれからフキノトウを摘みながら歩き始める。

沼の平へは、積雪期は大三本沢右岸から登るのが一般的のようだが、時間も押していて渡渉の心配もあったので、以前に歩いたことのある山神杉経由でたどることにした。

登山道は完全に雪に埋もれているので適当に堰堤のある沢筋へむかい、対岸に渡ってから尾根に上がると傾斜もゆるみ、いい感じのブナ林となる。途中からはスキーの跡も見られるようになり、トラバース気味に登っていくと懐かしい山神杉の祠が見えてきた。

立ち入り禁止のロープをくぐるとブナの大木が林立する森が広がる。すてきなのだけれど、何か足りない気がする。前回は鮮やかな新緑に彩られていたせいだろう。霧氷の森を期待していたのでちょっと残念。

ゆるやかに下って小三本沢へ。沢はまだほとんどが深い雪に閉ざされている。スノーブリッジから対岸へ渡り、少し登り返すと緩やかな起伏のある平坦地となる。雪壁に囲まれたような笹沼は一回り小さく見え、日が傾いたせいもありうら寂しさを感じる。

ドジなハプニングさえなければ、この沼の平をもっともっとさまよいたかったのだけれど、今宵のねぐらを求めて曲沼へ向かう。この沼はほとんどが未だ雪で覆われている。沼を見下ろす平坦なポコが快適そうだったので、ここで行動を終えることにした。

さあ、焚き火をしましょっ、焚き火。今日のごたごたはみんな焚き火にくべてしまいましょう。焚き火の脇でゆったりと夕食をとれば、幸福感が滲み出てくる。沼の平の雪のブナの森で焚き火をしながらくつろぐという、ささやかな夢が今かなっているのだもの。しかも満月の夜。月明かりでブナの影が伸びている。

 

翌日は長い一日となるので早めに出発。予報どおりこの上ない快晴だ。締まった雪を快適に踏みながら、猿崖の上に伸びている尾根の取り付きへ向かう。百合の沢源頭部にもすばらしいブナ林がひろがっている。

尾根にのると眼下には、会津に逃げる河井継之助の軍勢が大砲を落としたという言伝えの大砲沼と小さな沼が見渡せる。猿崖直下の濁り沼はまだ雪で覆われている。

これからずっと山頂近くまでこの素敵なブナの森が続くのかと思うとワクワクする。1075mポコにのるとぐっと展望が開け、守門や黒姫、烏帽子が近い。大三本沢右岸尾根は緩やかに広がっており、対岸にはエレガントに尾を長く引いたような早坂尾根のブナ林が続いている。いつかあの尾根を歩いて八十里峠に抜けてみたいなと思う。これまで歩いた道が少しずつ繋がっていくようでうれしい。

源頭部で小三本沢左岸尾根と合流する。このあたりはさらに極上の森だ。うっとりとしながら歩いていると左手から「ほっー」という人の声がする。単独のスキーヤーが小三本沢方面から登ってきているのだ。なんだかとってもうれしくなり、「ヤッホー」とエールを返す。

しだいに無木立のだだっ広い雪原の登りとなり、ひたすら山頂をめざす。ふり返るたびに展望が開け、疲れを忘れさせてくれる。波打つ山並みのトリを勤めるかのように川内の雄たる矢筈と最高峰の粟ヶ岳が正面に凛々しい・・・

途中の避難小屋は完全に雪に埋もれて見当たらなかったが、ストックを刺して「探鉱」したところ赤い屋根がでてきて大喜び。ようやくたどり着いた山頂には、すでに数人の登山者がくつろいでいた。みなムジナ沢口から登ってきたようだ。

小三本沢方面から先行していた単独のスキーヤーは年配のベテランで、私たちのルートに興味を持ったらしくいろいろ話しかけてきた。すでに30数年間浅草岳に通っているというこの山域の「通」の人に感心してもらい、ちょっぴり晴れがましい気持ちだ。

山頂からは、いままで見えなかった南側の山並みをなぞる。鬼ヶ面のギザギザはすごい迫力。その先には雄々しい毛猛の鋭鋒がつらなり、霞んではいるが2週前に行った未丈ケ岳へと続く。眼下の田子倉湖対岸から立ち上がる村杉半島の尾根筋を追う。

かなたの村杉岳山頂は白く見えるが、手前の横山や猿倉山は真っ黒で藪に苦労しそうだ。山頂から少し離れた静かなところに銀マットをしき、行きたい山々が目白押しの極上の展望を楽しみながらの大休憩。緩やかな大雪原の下りも快適この上ない。スキーヤーに人気があるのも納得。

平石山までは順調に下るが、熱さでバテ気味となる。問題は山神杉までの下りだった。去年の5月に下ったときは何も問題なかったので意識していなかったが、冬道の踏み跡をたどったのが良くなかったのか、途中でルートに迷いが出てしまう。

腐れ雪の恐ろしく急な斜面を冷や汗をかきながらトラバースして登山道に出たものの雪のつき方がいやらしく、再び方針転換して窪地に下り、登り返してようやく山神杉に戻った。

ここからは来たときの踏み跡をたどればいいと気楽に考えていたが、なぜか途中で見失い、またまた急斜面を強引に下って堰堤が続く沢筋に降りた。地図をもっとしっかり見るべきだったのに、疲れて投げやり気味だったと、あとで反省。スノーシェッドが見えたので渡渉せずに下ったところ、問題なく林道に下りることができた。

今度こそお疲れ様と握手をして車へ急ぐ。帰りはさらに遠回りルートだけれど時間が早い(それでも4時間)磐越~関越道を猛スピードで飛ばし、なんとか最終一本前の新幹線に間に合った。眠気も吹っ飛ぶ120kmで一人運転を続けたYさん、ほんとうにご苦労様でした。

 

 

 

 

 

10日 入叶津14:30-山神杉16:40-曲沼(テント)17:35

11日 テンバ6:30-猿崖北尾根1075m8:30-避難小屋地点10:40-山頂11:30-12:15-平石山14:10/25-山神杉15:40-スノーシェッド脇林道16:30